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散々悩んだ結果、まずは無料体験をすることになった。駅前から無料送迎バスで約三十分。広大な敷地に、乗馬クラブはあった。こんなに大きな乗馬クラブなら、寺島さんが働いていたとしても、会うことはできないかもしれない。寺島さんに近づきたい一心で乗馬クラブに入ろうと思っていたけれど、無料体験だけして、入会はやめようかな。
「こんにちは、桃ちゃん」
バスから降りた私に、加藤さんが声をかけてくれた。
「こんにちは。お世話になります」
「オレは営業と事務だから、残念だけれど無料体験にはついていけないんだよな。桃ちゃんが乗馬する姿、見たかったな」
相変わらず自分の気持ちをストレートにぶつけてくる、加藤さん。わかりやすくて良い人なのかもしれない。でも、恋愛感情はまるでない。そんなことを思いながら、加藤さんの後について行った。無料体験は、私以外にも数名いた。第二の人生を楽しんでいそうなご婦人や、大学生っぽい二人組、あと子育てが落ち着いた主婦っぽい人。その人たちから見たら、私は独身OLに見られているのだろうか。
加藤さんから離れて、担当者から説明を受ける。ドラマならここで『実は、担当者が寺島さんでした!』なんてことも起こるのだろうが、そんな都合の良いことは起こらない。だから、ドラマはドラマなのだ。
でも、意外なことが起こった。乗馬が、ものすごく楽しかったのだ。一緒に体験乗馬した人たちも気さくで、ひとりで参加した私も、寂しい思いをすることもなかった。寺島さんがいなくてもいいし、寺島さんに会えたなら、乗馬を始めた報告もできるし。
体験乗馬が終わった後、私はすぐに加藤さんにメールを送っていた。
『その場で入会しました。よろしくお願いします』
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