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誤解と、初恋と
「……え?」
ある晴れた、八月の朝。自宅から歩いて数分のところにある、バイト先の喫茶店。私は目を丸くしながら、カウンター越しに常連客の加藤さんをじっと見ていた。
「そうだよね。急に言われたら、驚くのも無理ない」
加藤さんはひとりで納得をすると、オーバーなくらいウンウンと頷いた。
「でも、もう一度言うね。オレで良ければ付き合ってほしい」
今日もビシッとスーツを着て、モーニングを注文している加藤さんからの、突然の告白。驚かないほうがおかしな話だ。
「あの……大変申し上げにくいのですが」
「あ、もしかして、彼氏がいるとか?」
「あ、いえ……そうではなくて」
「あれ? ちょっと、加藤さん。うちの桃ちゃんに何かした?」
俯く私の姿に気付いたマスターが、冗談混じりに助け舟を出した。
「いや、ね。桃ちゃん、かわいいから。他のヤツに取られないうちに……と思って」
「え? 加藤さん。それはちょっと」
加藤さんのひと言に、マスターが真顔になった。
「なんだよ、マスター。オレの恋路のじゃまをする気?」
「いや……。桃ちゃん、まだ十七だから」
「えっ!」
加藤さんは驚きのあまり、まるでコントのようにカウンター席からひっくり返った。
「だ、大丈夫?」
慌てたマスターがカウンターを出ると、倒れた加藤さんを起こした。
「身体は大丈夫だけれど。心にダメージを受けたよ……」
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