厄介と、有用と

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 翌日の夕方。駅前のファーストフード店で、加藤さんと会う約束をしていた。いつものように加藤さんは、スーツ姿で現れた。 「まさか桃ちゃんが、乗馬に興味があるとは。うちの乗馬クラブは学割もあるし、今月中に会員になってくれたら、桃ちゃんのために特別割引してあげるよ」  加藤さんは営業マンらしく、席につくなり営業トークを始めた。寺島さんは馬の世話をしているスタッフのようだけれど、きっと加藤さんは、馬には触らないスタッフなのだろう。 「ありがとうございます」  寺島さんに近づきたいあまり、加藤さん経由で乗馬クラブに入会するなんて。そんな私の下心を知らない加藤さんは、嬉しそうに乗馬クラブのシステムを説明してくれていた。 「できれば、自分のお小遣いでなんとかしたいのですが。やっぱり、結構な料金がかかりますね」  いくら割引が効くといえども、高校生の私には、諸々の経費は安いとは言えなかった。 「まぁ、桃ちゃんさえ良ければ。オレが料金を出してあげてもいいけれど」 「え? それはどう言う意味ですか?」  これは、加藤さんも下心があるな。すぐに勘付いたけれど、とぼけて聞き返した。 「例えば極端な話、オレと結婚したら。奥さんのレッスン料金をオレが出すのは変じゃないでしょ?」  加藤さんがいきなり、直球を投げてきた。冗談なのか、本気なのかも見当がつかない。 「ごめんなさい。私、まだ結婚する気は」 「ハハハ。冗談だよ! でも、今月中に会員になったら特別割引は本当にするから。検討してみてね」 「ありがとうございます」 「あ、それから」  資料の入った封筒に触れた手を、加藤さんがそっと握った。 「年の差なんて関係ない。オレは、桃ちゃんが好きだから。そっちも検討してくれる?」  触れられた手がどんどん熱くなった。それは、加藤さんに対してではなく、このシチュエーションにドキドキしていた。
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