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一
四月も二週間が過ぎた。
北東北にある北新高校校庭の桜は、既に皆散ってしまった。枝には青々とした葉を茂らせている。
「今日も終わったねえ」
「何とか終わりました」
木場沙也加と沢渡夏海は、部室の戸締りをし、家路に向かう。
外は既に暗い。
沙也加と夏海の二人は、北新高校剣道部の二年生と三年生である。
夏海は女子部の主将を務めており、沙也加は女子二年生の筆頭という立場にある。いわば次期主将ということだ。
先輩後輩の二人だが、二人は姉妹のような間柄だ。なぜかというと、どちらの両親も剣道を縁とした友人であるからだ。
二人が話しているのは、四月に転校してきた二年生、島津大陸のことだった。
北新高校は、県下で有数の剣道強豪校であるが、伝統的に女子が強い。
男子も大会のたびに上位に名を連ねているのだが、男子がベストフォーなら女子は準優勝、男子が準優勝なら女子は優勝といったように、なぜか女子はいつも男子より成績が良い。
ゆえに、剣道部では女子ばかりが注目されることになり、男子の存在は、女子の陰に隠れて霞んでしまっている状況である。
このことには理由があった。
まず、男子と女子は、別々に練習している。
女子は常に自分たちを追い込み、各々壁を越えようとして稽古に没頭している。
男子は、女子の稽古に取り組む姿勢に圧倒されているが、対抗しようとは思わなかった。逆に、剣道だけが人生ではないだろうという考え方を生んだ。
いつのころからか、これが伝統となった。
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