十八

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「総体まで、一緒に稽古、付けてくれるかな。警察に行ってもいいから」  え、と壮介は一瞬戸惑うが、もちろん、いいよ、と胸を叩く。 「わたし、頑張るからね。見ててね」  何があったのかはわからないが、壮介は、四段を取った甲斐があったなと、今更ながら、これまでの道のりに思いを馳せる。  四段を取ったから市民大会があった。娘と一緒に試合に出ることができた。優勝した。  そして今、初めて娘から「お父さん」と呼ばれた。「一緒に稽古してほしい」と言われた。  じわりと目頭が熱くなった。  沙羅も、目頭を押さえている。   京都を離れていた島津陸之助は、一年後に戻って来た。   その後、陸之助とさやは所帯を持ち、一子をもうける。男の子だった。   しかし陸之助は、今度は鳥羽伏見の戦いに駆り出され、そのまま行方知れ  ずとなってしまった。   働いていた旅籠もなくなってしまった。一緒にさやと働いていた者たち   も、散り散りになってしまった。どこにいるのか全く分からない。   さやの父も、この戦いの中で、行方知れずになってしまった。   陸之助は、薩摩へ戻ったのだとか、会津まで戦いに同行したのだという噂  が、さやの耳に入るが、さやは、どれも信じなかった。   さやは、京都で、長男と二人、ひたすら陸之助の帰りを待った。
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