32人が本棚に入れています
本棚に追加
/128ページ
「総体まで、一緒に稽古、付けてくれるかな。警察に行ってもいいから」
え、と壮介は一瞬戸惑うが、もちろん、いいよ、と胸を叩く。
「わたし、頑張るからね。見ててね」
何があったのかはわからないが、壮介は、四段を取った甲斐があったなと、今更ながら、これまでの道のりに思いを馳せる。
四段を取ったから市民大会があった。娘と一緒に試合に出ることができた。優勝した。
そして今、初めて娘から「お父さん」と呼ばれた。「一緒に稽古してほしい」と言われた。
じわりと目頭が熱くなった。
沙羅も、目頭を押さえている。
京都を離れていた島津陸之助は、一年後に戻って来た。
その後、陸之助とさやは所帯を持ち、一子をもうける。男の子だった。
しかし陸之助は、今度は鳥羽伏見の戦いに駆り出され、そのまま行方知れ
ずとなってしまった。
働いていた旅籠もなくなってしまった。一緒にさやと働いていた者たち
も、散り散りになってしまった。どこにいるのか全く分からない。
さやの父も、この戦いの中で、行方知れずになってしまった。
陸之助は、薩摩へ戻ったのだとか、会津まで戦いに同行したのだという噂
が、さやの耳に入るが、さやは、どれも信じなかった。
さやは、京都で、長男と二人、ひたすら陸之助の帰りを待った。
最初のコメントを投稿しよう!