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子どもの頃から、運命の人と出会うことを夢みていた。
それは突然の出来事で、二人は恋におちて、いつまでも幸せに暮らす。
ボロボロになるほど何度も読み返した絵本のお姫様は、どのお話もそれがお決まりだった。
私の人生でも同じことが起こると、信じて疑わなかった。
そして気が付くと私は、独りのまま死んでいた。
「お前は、もう死んでる」
「え?あの、どういうこと?」
「だから、お前はもう死んでるんだってば」
いつの間にか気が付くとここにいた。
状況のつかめない私に先程から“お前は死んでる”とどこか聞き覚えのあるような言葉を何度も口にしているのは、謎の甚平男。
何で髪が銀髪なの?この銀髪は地毛なの?とか、この寒い中何で甚平一枚なの?敏感肌と真逆ってことは鈍感肌なの?とか疑問は次々に頭に浮かぶが、それよりもまずこの果てなく続く灰色の世界は何なのっていうか私は何でこんなところに、こんな得体の知れない奴と一緒にいるの?
「お前は頭の中まで騒がしいんだな」
「へっ!?」
「それに、得体の知れないってのは聞き捨てならないな」
「だって何者かわからないもん」
「だから俺が説明してやるから、少し黙ってろ。口も、頭もな」
甚平男は私の頭をわし掴みにし、ぶんぶんと揺さぶった。
そして、懐から巻物のようなものを取り出し、広げた。
「えー、赤石リコ。24歳。20XX年7月30日、日本時間午後5時23分死亡。死因は夕立のせいで視界不良になった車に撥ねられたことによる頭部外傷。即死だったせいで死んだ記憶はなし。ここまでで質問は?」
「私、死んでるの……?」
「さっきから何度もそう言ってるだろ?」
「じゃ、じゃあ、ここはどこなの?」
「ここは死後の世界。境界だ」
「境界?」
「あぁ。死んだ人間が訪れる場所だ。ちなみにここは現世での天候、気温は関係ない。だからここが寒いってのは、お前の思い込みで、俺がこんな格好をしてても寒くもないし、暑くもないってわけ。というか、お前だって半袖着てるだろ」
甚平男に言われて初めて自分が半袖を着てることに気が付いた。
「あれ、そういやさっきより寒くなくなってきたような…」
「人間は死ぬと体温が下がるから、死んですぐはそう感じるんだろ」
「なるほど……でも、私どうやって死んだの?」
「お前俺の説明ちゃんと聞いてたのか?」
「そ、そんないきなり言われて理解できるわけないでしょ!?」
「まぁ、そうか。お前が死んだのは7月30日の午後5時23分。夕立で視界不良になった車に撥ねられて即死」
「即死、だったの?」
「みたいだな。しかもよりにもよって夕立の時間に事故に遭うって、数十分もすりゃ止むような雨だぞ?お前、どんだけ運悪いんだよ」
「そ、そんなの今関係ないでしょ!?それより、あんたは誰なのよ!」
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