2

1/1
前へ
/6ページ
次へ

2

「俺はここの番人。死者を天界へ導く先導者だ」 「天界?天国ってこと?」 「現世ではそうだな。まぁ、天界へ逝けるかどうかはもっと上の奴が決めることだから、お前が無事に天界へ逝けるか俺には分からない」 「なら、何のためにあんたはいるの?」 「死者に死を受け入れさせ、天界に逝く準備が出来た奴を上に引き継ぐ役目がある」 「天界に逝く準備って?」 「思い残しを無くすことだ。現世に何か留まりたいと思う気持ちがあると、天界には逝けない」 「もし、思い残すようなことがあったら…?」 「番人が、望みを叶えて思い残しを無くすんだ」 「それって、私も望みを叶えてもらえるの?」 「お前は死者だからな。俺が担当する。何か叶えたいことがあるのか?」 「……何でもいいの?」 「もちろん禁止事項はある。命あるものすべてに害をなしてはならない。それが掟だ。さすがに番人でも、輪廻から外れた行動をすると消されるからな」 「そういうのじゃ、ないけど……」 「何だよ?言ってみろよ。とりあえず聞いてから要相談だ」 巻物をまき直しながら甚平男が言う。 「……う」 「う?」 「運命の人と……出会いたい……」 「……はあ?」 甚平男は拍子抜けしたのか声が裏返った。 「だから、運命の人と出会って、恋におちて、いつまでも幸せに暮らしたい!」 「そんなの、死んでるんだから無理に決まってんだろ?人の気持ちを変えることも、現世の人間と関わることも禁じられてる」 「禁止事項多すぎじゃない!?じゃあ一体何が出来るのよ!」 「俺に文句言うなよ!」 「あんたが望みを叶えてくれるって言うから言っただけだもん!」 「にしても、もっと他にあるだろ!?子どもかよ!」 「他はない!私、小さい頃からずっと夢みてた。運命の人が現れるのをずっと待ってた。そしたらいつの間にか歳だけ取って、気付いたら死んでたんだよ?その一番の夢が叶ってないのに死ねるわけないじゃん!」 「だから生きてる間、いろんな奴が言ってただろ!?死んだら何もできない、生きてるうちにやりたいことをやれって!生きてるうちが花なんだよ!なのに何もしてこなかったお前のせいだろ!」 「まだ生きてるもん!」 「お前ホント何も聞いてないな!お前はもう死んでるんだよ!」 「死んでる死んでるって言わないでよ!」 「事実だろ!?」 「死んでない!」 「死んでる!」 「心は、死んでない!」 私が力いっぱいにそう叫ぶと、甚平男は言葉に詰まった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加