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「私はまだここにいる。こうやって怒ることが出来るし、望みが叶うかもって希望をもってる。心がまだ生きてる証拠じゃん」 「……」 「運命の人がいるって、本当に信じてたの。馬鹿だって何度も言われてきたよ。現実見ろって。私だって分かってる。でも、諦めたくない。このまま独りで死にたくないよ……」 「けど、人間は誰もお前を触れないんだぞ?見ることだって出来ない。それでどうやって出会って恋して、幸せになるっていうんだよ」 「出会わなくていい。恋もできなくていい。ただ、本当に運命の人がいたのか知りたい。それでもダメ?」 「……いいのか?たとえその運命の人を見つけても、お前の思ってるような人間じゃないかもしれないんだぞ?恋するような人間じゃなかったら、どうするんだよ」 「いいの。その人が私と同じ世界で生きていたって分かれば、それだけで嬉しいから。信じて良かったって思えるから。そしたら思い残すことなく天界でもどこへでも逝く」 「……」 「ね?運命の人がいたのか、確認するだけ。それならいいでしょ?」 「……分かった。でも、後悔しても知らないからな」 「うん、ありがとう!」 甚平男は懐から扇子を取り出すと、私に向かって大きく扇いだ。 生暖かい風が体を抜ける。かすかに雨のにおいがした。 次の瞬間、目の前に見慣れた場所が広がった。 私の住んでいる町の景色だ。 大粒の雨がしきりに降っていて、空ではゴロゴロと雷が鳴っている。 不思議と雨は当たらなかった。 町の人も私が見えていないのか、誰もこちらを見ない。 私は信号ほどの高さから町の交差点を見下ろしていて、隣には甚平男がいた。 「ここって…」 「今、現世は20XX年7月30日、午後5時22分」 「え!?」 「この日、ある男が、母親の持病が悪化したと病院から呼び出され、急いで向かっていた」 向こうから一台の車がすごいスピードで進んでくるのが見えた。 その時、進行方向の信号が赤に変わった。 だが、車のスピードは落ちない。 そこへ車線を横切る横断歩道を、ひとつの傘が渡っていく。 「あ、あれって」 「夕立のせいで前がよく見えていなかった男は、横断歩道にいる女に気付かなかった」 それは見慣れた柄で、自分のだと分かるのに時間はかからなかった。 濡れないように傘を深く差しているせいか、自分に迫って来る車に気付かない。 車はそのスピードのまま、傘に衝突した。 弾き飛ばされる傘と、人。 キキィと激しいブレーキの音が響き渡る。 派手な音をたてながら、雨でスリップした車は電柱に衝突し停車した。 あそこへ行かなきゃ、そう思うのと同時に体が動いた。 吸い込まれるように倒れている人へと近寄る。 やっぱり、それは私だった。 頭から大量の血が流れ、夕立の雨に溶けていく。 ピクリとも動かない自分に言葉が出てこない。 すると、ぶつかった車の方から足音が聞こえ顔をあげた。 運転していたであろう男も全身血まみれになっていて、腕を押え片足を引きずりながら、倒れている私の方へ歩み寄って来る。 「だい、じょうぶ……ですか!」 「え……?」 「だれか、救急車……救急車を!お願いします……!」 終始呆然と見ていた人達が、慌てて二人のもとに駆け寄る。 とうとう、男も意識を失い、私の隣に倒れこんだ。 私は目を疑った。 その男は、甚平男にそっくりだった。 「この男が、お前の運命の相手だ」 「うそ……」 未だ雨足は弱まらない。 私はその男から目が離せなかった。
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