0人が本棚に入れています
本棚に追加
4
「だから言っただろ。後悔しても知らないって」
気が付くと、私と甚平男は灰色の世界に戻っていた。
「皮肉にもお前を殺した奴が、お前がずっと探してた運命の人だったってわけ。ま、理想と現実は違うってことだ」
「あの人……あんたに似てたよね?」
「そ、そうか?」
「髪の色以外はあんたのままだった。あんたとあの男の人、何か関係があるの?」
「……」
「ねぇ!」
「……あの男は、現世で生きていた時の俺だ」
「え?」
「あの後、俺も病院に運ばれてすぐに死んだ。気が付いたらここにいて、番人って奴に会って、思い残すことは何だって聞かれた。お前と同じようにな」
「で、何て答えたの?」
「それは……」
「教えて!」
「……お前を、助けたいって」
「え……でも、生き返らせることは」
「あぁ、出来ない。もしそんなことをしたら、望んだ方も叶えた方も罰則を受けることになる」
「消されるんだよね?」
「あぁ。輪廻から外れたことだからな。ナニモノかに消される。それに、生き返らせた人間も決して幸せには生きられない。あの時、番人に言われたんだ。お前を助けたいなら、現世にいるお前を見つけ出せって」
「どういうこと?」
「お前みたいに即死だった人間は、自分が死んだことに気付いてない。だから、ずっと現世で留まり続けてしまうんだ。そうなると、天界に上がることは難しくなる。輪廻からも外れた存在になって、しまいには何もなくなってしまうんだ。生きていた時間も、思い出も、心も。自分が何だったのか、分からなくなる」
「私がそうならないように、探してくれたってこと?」
「それしか出来ることがなかったんだ……俺のせいでお前の時間を、命を奪ったのに……本当にすまなかった」
そう言って甚平男は私に頭を下げた。
「や、やめてよ!あんただって、あの時、病院に呼び出されてたんでしょ?家族が危ないかもしれない時に、落ち着いてなんかいられないよ。それに、あの日は夕立で前も見えないくらいの雨だったし、私も周りを見てなかったから」
「だとしても、言わせてくれ。本当に、すまなかった」
もう一度、頭を下げる甚平男。
私は必死に何かかける言葉を探した。
すると、あることに気が付いてしまった。
「ちょっと待って……っていうことはさ、私の運命の人って」
甚平男の肩がビクッと動くのを私は見逃さなかった。
頭を上げた甚平男の顔は、ほのかに赤くなっているように見える。
「こんな状況で、すっげぇ言いにくいんだけど……お前がずっと夢みてた運命の人は、俺、なんだよな」
照れたように顔をそらす甚平男。
「な、なんで照れるのよ!人撥ねといて!」
「やめろよその言い方!俺だって好きで撥ねたんじゃ」
「運命の人に即死させたれたこっちの身にもなってよ!もっとドキドキしたり、ときめくような出会いだと思ってたのに!」
「わ、悪かったってば!」
「悪かったで済んだら救急車はいらないの!!」
「だから言っただろ?お前が思ってるような人じゃないかもしれないって!」
「まさかあんただとは思わないじゃない!」
「俺だってお前の運命の人が俺だとは思わないだろ!?」
「はい、そこまでー」
最初のコメントを投稿しよう!