4

1/1
前へ
/6ページ
次へ

4

「だから言っただろ。後悔しても知らないって」 気が付くと、私と甚平男は灰色の世界に戻っていた。 「皮肉にもお前を殺した奴が、お前がずっと探してた運命の人だったってわけ。ま、理想と現実は違うってことだ」 「あの人……あんたに似てたよね?」 「そ、そうか?」 「髪の色以外はあんたのままだった。あんたとあの男の人、何か関係があるの?」 「……」 「ねぇ!」 「……あの男は、現世で生きていた時の俺だ」 「え?」 「あの後、俺も病院に運ばれてすぐに死んだ。気が付いたらここにいて、番人って奴に会って、思い残すことは何だって聞かれた。お前と同じようにな」 「で、何て答えたの?」 「それは……」 「教えて!」 「……お前を、助けたいって」 「え……でも、生き返らせることは」 「あぁ、出来ない。もしそんなことをしたら、望んだ方も叶えた方も罰則を受けることになる」 「消されるんだよね?」 「あぁ。輪廻から外れたことだからな。ナニモノかに消される。それに、生き返らせた人間も決して幸せには生きられない。あの時、番人に言われたんだ。お前を助けたいなら、現世にいるお前を見つけ出せって」 「どういうこと?」 「お前みたいに即死だった人間は、自分が死んだことに気付いてない。だから、ずっと現世で留まり続けてしまうんだ。そうなると、天界に上がることは難しくなる。輪廻からも外れた存在になって、しまいには何もなくなってしまうんだ。生きていた時間も、思い出も、心も。自分が何だったのか、分からなくなる」 「私がそうならないように、探してくれたってこと?」 「それしか出来ることがなかったんだ……俺のせいでお前の時間を、命を奪ったのに……本当にすまなかった」 そう言って甚平男は私に頭を下げた。 「や、やめてよ!あんただって、あの時、病院に呼び出されてたんでしょ?家族が危ないかもしれない時に、落ち着いてなんかいられないよ。それに、あの日は夕立で前も見えないくらいの雨だったし、私も周りを見てなかったから」 「だとしても、言わせてくれ。本当に、すまなかった」 もう一度、頭を下げる甚平男。 私は必死に何かかける言葉を探した。 すると、あることに気が付いてしまった。 「ちょっと待って……っていうことはさ、私の運命の人って」 甚平男の肩がビクッと動くのを私は見逃さなかった。 頭を上げた甚平男の顔は、ほのかに赤くなっているように見える。 「こんな状況で、すっげぇ言いにくいんだけど……お前がずっと夢みてた運命の人は、俺、なんだよな」 照れたように顔をそらす甚平男。 「な、なんで照れるのよ!人撥ねといて!」 「やめろよその言い方!俺だって好きで撥ねたんじゃ」 「運命の人に即死させたれたこっちの身にもなってよ!もっとドキドキしたり、ときめくような出会いだと思ってたのに!」 「わ、悪かったってば!」 「悪かったで済んだら救急車はいらないの!!」 「だから言っただろ?お前が思ってるような人じゃないかもしれないって!」 「まさかあんただとは思わないじゃない!」 「俺だってお前の運命の人が俺だとは思わないだろ!?」 「はい、そこまでー」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加