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「荷物、日曜のお昼頃までにまとめておいてね」と、母さんは何日も前から、僕と顔を合わせる度に言った。  そんな二回も三回も言わなくてもいいのに、と思ったけれど、母さんなりに僕のことを心配しているのだと思う。それに対して、鬱陶しいとは思わなかった。  まとめておいてとは言われたものの、いざ作業を始めると、いかに自分の部屋に物が少ないか改めて実感させられた。お祖父ちゃんの家に持っていく荷物は、たったの段ボール一箱で済んでしまった。  僕は今日、生まれ育った家を離れる。母方の祖父の元に身を寄せることになった。  けれどこの引っ越しに関する一連の流れは、僕の意思とはほぼ無関係に決まった。何かを訴えたり、抗ったりする気力が起きなかった。  というより、他の物事に対してもそうだ。  この無気力な状態が一体どれくらい前から続いているのか、僕はもう分からなくなっていた。
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