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おねしょゆうれい
むかしむかし、ある山にたった1つだけの小さな家がありました。
夕ぐれ空が広がる中、空中にうかんでいたゆうれいがその家のおにわにあるべんじょの中に入りました。
「ひっひっひ、今日もここのぼうやをたっぷりとこわがらせてやるぞ」
ゆうれいは、いつも夜に子どものいる家のべんじょに入ってこわがらせるのがしごとです。
その日の夜、小さな家からはらがけをつけた子グマのクマきちがいそぎ足で出てきました。クマきちは、りょう手でおなかをおさえながら走っています。
「お、おしっこ……」
おしっこがしたくなったクマきちは、すぐにべんじょの中に足を入れました。そのべんじょに入ると、くらやみから聞こえるぶきみな声がクマきちの耳に入ってきました。
「ぼうや、ぼうや……。こっちへおいで……」
クマきちは、べんじょから聞こえる声がとてもこわくてふるえています。でも、立ち止まったままでおしっこをしなかったらたいへんなことになってしまいます。
そんなクマきちをさらにこわがらせようと、ゆうれいはべんじょの中に火の玉を出すことにしました。すると、今までずっとまっくらだったべんじょの中がほのかに明るくなりました。
「おしっこ、おしっこ」
クマきちがおしっこをするばしょへしゃがもうとしたその時、目の前に火の玉がうかんでいることに気づきました。
「こ、こわいよう……」
後ずさりしようとするクマきちに、べんじょのおくからすがたをあらわしたゆうれいが火の玉とともに近づいてきました。
「ぼうや、こっちへおいで……。こっちへおいで……」
「う、うわあああああああああっ!」
ゆうれいの声を聞いたとたん、クマきちはおしっこをしないであわてて家の中へ戻って行きました。このようすを見て、ゆうれいはくらやみのべんじょで大わらいしています。
「ひっひっひ、これであのぼうやがどうなるのか楽しみでたまらないなあ」
つぎの日の朝、おにわではクマきちがはらがけの下をりょう手でおさえながらはずかしがっています。そのすがたをえがおで見つめているのは、クマきちが大すきなクマのお母さんです。
「かあちゃ、おねしょしちゃった」
「ふふふ、今日も見事にやっちゃったね」
クマきちのとなりにあるものほしには、でっかいおねしょをやってしまったおふとんがほされています。
「クマきちはゆうれいがこわいのかな?」
「だ、だって本当にこわいんだもん……」
お母さんグマはやさしく話しかけていますが、クマきちは顔を赤らめながら小さな声でしゃべっています。
空の上には、ゆうれいがクマの親子のようすをながめながらわらっています。
「ひっひっひ、おいらがべんじょでうまくこわがらせたおかげで、あのぼうやは大きなおねしょのちずをえがいたみたいだな」
クマきちのおねしょぶとんを遠くから見とどけると、大空をとびながらつぎのばしょへ向かいました。
それからというもの、べんじょにいるゆうれいに出くわした子どもはおねしょをしてしまうという話が広まったということです。そのゆうれいは、いつの間にか『おねしょゆうれい』とよばれるようになりました。
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