陸便り

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「海斗、お前さぁ。」  通路側に座っている海斗の頭を引き寄せた。  結婚式帰りの新幹線の車内。  涙も枯れ果てた海斗のことが愛おしい。  海斗は桃のことで頭がいっぱいだ。    もし桃と海斗が結婚していたら、俺がこうなっていただろう。  抜け殻みたいに。  窓の外の宵闇。  そげたような俺の顔が窓に映っている。  俺の目のあたりを、時折、白い光がかすめて飛び去る。  小田原を過ぎたあたりで俺は覚悟を決めた。 「知ってる?」  海斗の頭をぐっと引き下げた。  俺の、ちょうど心臓のあたりに海斗の左耳がくっつく。  ごめん、と心の中で謝る。  海斗に。  のんのんさまに。それから思い直して今日のチャペルのキリストさまにも。  去年亡くなったひいばあちゃんにも。  ばちあたりでごめん。  抜け殻みたいな海斗を、友達として慰めてやれなくてごめん。  今から俺は親友を失う。  子どもの頃からの大切な。 「お前のうなじのちょっと上のさ、髪に隠れているあたりに小さなほくろがあるんだぜ。」  まさに、その部分に俺の指が触れた。  心臓の音が耳の中で鳴る。  お願いだ。  どうか受け取って欲しい。  想いだけは。  決して受け入れてもらえなくても。  俺は弱虫だ。  ずっと友達のままでいようとしていた。  でも今日言わなかったら一生先に進めない。  今から俺は海斗を傷付ける。  海斗はもうずっと前から、俺にとって友達なんかじゃ、なかったんだ。  海斗はゆっくりと視線を上げた。  涙に濡れた俺の顔が、海斗の瞳に映っていた。 「海斗が好きだ。」
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