2 父の言葉、夫への微笑み

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「エリアだ」 「まあ、驚きましたわ。息子というより、まるで弟ですね」  私は夫の袖をつまむと、上目遣いで驚きを伝えた。夫はまだ私に夢中な時期なので、鼻の下を伸ばして私を見おろすと、その表情のままエリアに目を移した。 「エリア、お前の継母さんだ」 「……ようそこお継母様。大切な結婚式に参列できず申し訳ありませんでした」 「……っ」  愛しいエリアが、生きて言葉を発している。  その感動に、私は息を呑んだ。    でも、彼を守りたい。  私たちは愛し合ってはいけない。  そのためには出会った時の気持ちのままでいてもらわなければいけない。  憎まれていい。  それでエリアが生かされるなら、かまわない。 「当然よ。まだ亡くなったばかりだもの。悲しいわよね」  私はわざと馴れ馴れしくエリアの頬に手を伸ばした。   「!」  エリアは表情を凍らせると、私の手を忌まわしいもののように避けた。  ずきんと胸が痛むけれど、私は微笑み続けた。彼を守るために。  彼の望む、淫乱な魔女でいるために。 「あら、嫌われちゃったわ」 「いつまでも子供じみた真似をするんじゃない。すまないなフローラ」 「いいわ。ねえ、あっちで擽りあいっこしましょう?」 「お? そうかぁ……お前は世界一の可愛い妻だなあッ!!」    鼻の下を伸ばす夫の臭い息を浴びて、粗野な腕に抱えられ寝室に導かれる。  その私たちを、立ち尽くしたまま陰鬱に睨み続けるエリアの視線を感じていた。  これで、いい。  彼が生きてくれるなら、これで……
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