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「わかりました……寝室に、連れて行ってください」
声が震えた。
次の瞬間、エリアが夫の股間を蹴り上げた。
「ぐあああっ!」
凄まじい悲鳴を上げ、夫が膝を擦り合わせて倒れた。夫の額には脂汗がわき出て、真っ赤になってエリアを睨みつけている。
「どうぞ、お継母様は寝室でお休みください。親子だけで話がありますので」
「……」
憎悪の眼差しで夫を睨みつけたまま、エリアが言った。
「行け!」
「!」
エリアに怒鳴られて、私はその場を走り去った。
彼に考えがあるのだと信じた。
そして、夫の目に、臆病な私の姿を焼きつけたかった。
本当は、倒れて動けない夫を傷めつけて、身動き取れないように縛り上げて、エリアとふたりで逃げてしまいたかった。でも、そうするには確信がまだ持てない。
やがて、夜遅くになって寝室に現れた夫は、頬や額に傷を負い、痣を作っていた。エリアが暴行を加えたのだ。私を抱く気はなさそうで、手当てだけ忌々しそうに命じた。私は手当てが済むと、恐る恐る聞いた。
「エリアは……?」
「思い知らせてやった」
「!?」
びくりと震えた私を、夫が睨んだ。
「ふん。躾けただけだ。お前も、俺を怒らせないよう心掛けるんだな」
「……はい、わかりました」
私は先刻の光景で思い知った。この男に、嘆願は通じない。
エリアの身が心配だった。
今すぐにでも会いたい。抱きしめたい。
その想いを胸に、私は泣きながら夫の隣に身を横たえた。
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