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1 悪者は私?
「ああ……お前を可愛いと思う男は、ついに、この世で私ただひとりか」
「取られなくてよかったと思いなさいよ」
「サラ……! あなたッ、お父様に向かってなんてことを……!!」
私の20年後の顔をした母が泣き崩れている。
「言っとくけど、体形を気にしてひとりしか生まなかったのはお母様よ。今更、私の結婚にケチがついたくらいで泣かないで」
「はあ、その調子でイェーリス卿の妹君を責めたのか」
「だから責めてないってば。お父様、私はね、彼女が義妹になると思って、ハッキリ、吹き出物は朝晩ちゃんと顔を洗って運動すれば治るって教えてあげたの」
「あなたはそう言って、丘を引きずり回したんですって……ッ?」
母が憎らしくなってくる。
娘の私を極悪人かのように泣きながら責めるのだ。
母はその昔、誰もが認める有名な美女だった。
王妃を差し置いて肖像画が出回ったほどらしい。
父は大恋愛の末、母の心を射止めた。何度も聞かされた自慢という昔話。
私は母の美貌をそっくり受け継いでいる。母の肖像画を見れば一目瞭然だ。
卵型の顔に、ほっそりした鼻と赤い唇。弓型の眉に、優しそうな二重。
そう、可憐で清楚な顔立ちをしている。
「走ったのよ」
「膝と頬を擦りむいたのよ!」
「お母様。自分の事のように嘆くなら、せめて私のために泣いてよね」
「ああ、あなた……!」
母が父に身を預け、号泣した。
女はこれだから困る。
感情的で、すぐ泣くし、泣いて済まないとわかるともっと泣き喚く。
私は肘掛椅子にぐったりと身を沈めた。
こんな茶番、付き合っていられない。
「あーあ! 男に生まれていたら、国のために領土拡大しまくったのに!」
「サラ!」
父が声を荒げる。
男に生まれたかったと言うと、母が悲しむからだ。
「馬術と狩りと剣術を教えてくれたのはお父様よ。欲しかったんでしょ、息子が」
「やめなさい! 今はお前の結婚について話しているんだ!」
「私もよ! お母様が泣くから話が進まないの!」
「私が悪いのよッ。ごめんなさい、あなた……!」
「ほら、本人もそう言ってる」
オイオイと泣く母の撫肩を、父はがっくりと項垂れながら撫でて溜息をついた。
「お前を可愛いと思える自分が憎らしい」
「お母様も可愛いでしょ。今から息子を作ったら?」
それで母がもっと泣いて、私もがっくり項垂れた。
疲れる。
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