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気持ちのいい雲みたいな草原を歩いていると、どこまでも虹色の道が続いていて、私のその果てを確かめたくて歩き続けた。飛べそうなほど体が軽くて、力に満ちて、裸足のまま駆けだした。
でも、ふと、独りぼっちだと気づいた。
「……」
足を止め、振り返る。
なにか忘れている。
とても大切だったはずなのに、遠く離れてしまった気がする。
その懐かしいほうを見つめながら、後ろ向きで虹の果てにまた歩き出した。
「──!」
声が聞こえた。
私は虹の果てに行ってみたかった。
だけど、声のするほうへ、いま後にしてきたほうへ、引き返した。
爆風が吹いて虹の果てに飛ばされそうになった。だから風に逆らい走り出した。
「サラ!」
それは私の名前だ。
あれはオリヴァーの声だ。
愛するオリヴァー。
「ああ、サラ!」
「……」
目を覚ましたら、最高に体が怠くて気持ちが悪かった。
私はベッドに寝ていた。というより、一体化していた。夫が跪いて、私の手を握って、泣きじゃくっている。
「……やだ……うっかり、死にかけちゃった……」
「……っ、……サラ……愛してるよ、サラ。傍にいてくれ……ッ」
「当たり前でしょ……あなたのサラなのよ……好きよ、オリヴァー……」
さて。
その後、医者と産婆が驚くほど驚異的な回復を見せた私だけど、しばらくはオリヴァーに気が済むまで世話をさせてあげた。
驚いた。
私って、死ぬのね。
愛する人を悲しませるのもよくないし、愛する人がいつか死ぬなら、共に過ごす時間は1秒だって無駄にできないという事を学んだ。
男に生まれたかった。女に生まれた自分は不運だと思っていた。
でも私はそれから14年間かけて3男4女を産んで、すんなり女の生を受け入れ満足するようになった。
もちろんお淑やかにはできない。
領土拡大への興味も失せない。
兵隊や軍が大好きだ。
でも愛する夫と子供たちに比べれば、まあ、取るに足らない。
(終)
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