14 新しい朝

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14 新しい朝

「ん……」  讃美歌の大合唱で目覚める、朝。   「ふぁ~あ」  ベッドに座って、あくびと背伸び。  すっかり空っぽのお腹を撫でて、身支度を整える。  きちんとしておかないと。  もう公爵夫人なのだし。 「奥様。はい、できました」 「ありがとう、ございます」 「もう、嫌ですわ。私は侍女なんですよ」 「そ、そうですね……慣れなくて」 「さぁ、参りましょう奥様」 「はい」  ずっと王妃に仕えていたのに、急に逆の立場になってしまって困惑ばかり。  私は、誰かに傅いてもらうような立場じゃないのに。  でも、母くらいの年の侍女は気さくで働き者。侍女というより、そう、家庭教師みたいだ。子供の頃を思い出す。 「あ、奥様。オイルを」 「あ」  部屋をでる間際、小さなスプーンでひとくち、木の実のオイルを舐めておく。 「んっ、あーあー」 「いかがです?」 「はっ♪ イイ感じです」  朝から歌う場合があるから。  本当に愉快な城だ。  廊下に出ると、すぐクロードに出くわした。 「あ、奥様」 「おはようございます、クロードさん」 「おはようございます。奥様、今日からしばらく留守にしますので自己管理を怠らぬようお願いします」 「えっ!?」  思わず、足が止まった。 「……」  クロードが、留守!?  お、おやつが……食べ放題…… 「すべて顔に出ておりますな」 「あっ、いえ……っ」 「アカデミーで保健指導を担う事になりました。代りにバーモスという医者が明後日には到着します。食と健康について新しい説を唱える老医師ですが、原因不明の体調不良など多く改善させた実績があるそうです」 「そ、そうですか」 「太り過ぎはよくないと唱える医者は、私だけではありません」 「もう、朝から奥様を脅かさないでくださいよ。はい、いってらっしゃいませ」  侍女がクロードの肩をバシバシ叩いて追い払った。  悪い人ではないのだけど、食べ物を制限するにくい人ではある。  だいたい、私は元気だ。  母の家系はみんな小さくて丸くて、よく食べる。でも元気に長生きしている。 「はぁ。本当に、こんなに歌の上手い使用人ばかりのお城も珍しいでしょう」 「そうですね」  私は中央階段に向かった。  今朝も、元王子で現公爵で夫のヨハンが生き生きと歌っている。  最初、失敗してしまった。  階段と広間を劇場みたいに使って大合唱している最中に、中央階段をうっかり下りて、私も歌うはめになった。普通にみんなで歌うだけならいいけど、ヨハンと私は階段の上で、まるで舞台に立つ歌手のように歌わなければいけなかったから……  歌い終わるのを待って、階段を下りた。    使用人たちの視線で気づいたヨハンが、さっと振り返る。 「おはよう、イーリス!」 「「「おはようございますっ、奥様!」」」 「「「おくさまぁ~♪」」」 「「「おくっ、さまっ♪ あさっ、あさっ♪」」」  陽気な人たちだ。  ヨハンが太陽みたいに輝く笑顔で両手を広げた。  私は広間の使用人の皆さんにペコペコ頭を下げながら、階段を中央まで下りた。 「どうも、皆さん、おはようございます」 「おはよう、イーリス」  するりと抱きしめられた。    見つめ合うと、顔がニマニマしてしまう。  愛する人と、愉快な人たちに囲まれて、今日も楽しい一日が始まったのだ。 「おはようございます、ヨハン……様」 「様じゃない」 「ヨハン……」  んんんん~っ、照れる!
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