9 まさかのコンビ

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9 まさかのコンビ

「食事は抜いてくださいましたね?」 「ああ、大丈夫だ。昨夜10時以降はなにも口にしていない」 「……」  王妃の用事を片付けようと、城のこっちからあっちへ向かっていたら、あっちからヨハン王子とクロードが歩いてきた。   「結構。体調はどうですか?」 「まあ2食抜いたところで死にはしない」 「2食……抜い……た……!?」 「やあ、イーリス」  すれちがい様に王子が足を止め、私の両肩を優しく掴んだ。  そして、おでこにキスを…… 「……!」  やだ!  またあのっ、甘酸っぱい気持ちが……っ!! 「おはよう。お使いかい?」 「はっ、はい……王妃様のお手紙を、ジョンに……」 「そう。いつもありがとう。母上は君と過ごせて幸せだな」 「あの……私も……っ、幸せです……っ」  王子がぐっと顔を寄せてきて、私の鼻を、つんつんした。 「ごめんよ、イーリス。僕が不甲斐ないばかりに、あれっきりおやつをあげられない。少し痩せたね。とても可愛いよ。君なら、ぽちゃっとしていてもスラッとしていても可愛い。ああ……イーリス。きっと僕がこの医者から救い出してあげるよ」 「殿下……」 「おやつを、君に……」 「そのくらいでいいですか?」  クロードのぴしっとしたてのひらが、王子と私の顔の間に壁を作った。  私は我に返って、王子も私の肩をぽんぽんと叩き、姿勢を正した。  でももう一度、私に触れた。今度は指先で、頬に。 「〈イーリス〉、いい匂いだね」 「……」  微笑みが、眩しすぎて……苦しい! 「私は芸術に疎いと自覚しておりますが、あの香りを調合させた殿下の美的センスには脱帽です。イーリス嬢の持つ先天的な雰囲気と性格を、よく表現しましたね。それでいてあどけなさとおつむの軽さを感じさせない上品な香りに」 「黙れ」  王子がクロードを睨んだ。  そしてまた私に微笑んだ。 「じゃあ行くよ。これから検査を受けるんだ」 「えっ? どっ、どこかお加減が」 「違う。健康だと証明するために、体の外も中も隅々まで調べてもらうのさ」 「殿下。そんなにこの御令嬢と離れたくないのなら、御一緒されては? そしてこの際イーリス嬢も検査を──」 「黙れ」  一緒にいるからといって、王子とクロードは仲良しではないらしい。   「クロード、ひとつ言っておく。僕はいろんな芸術家と普段過ごしているけど、小太りは温和で長生きだ。王侯貴族のぶくぶく太った痛風連中と可愛い小太りを一緒にするな」 「その小太り芸術家にも餌を?」 「口を慎め」 「失礼。酒や、悍ましい砂糖菓子を与えているのですか? あなたが?」 「酒は創作を妨げる。強請られても、売れたら祝ってやるとつっぱねるさ」 「ふむ。少しリスクは下がりましたね」 「あっ、あの!」  王子の恐い顔にびっくりして、つい声をあげてしまった。 「喧嘩ではなく、検査を……!」 「ああ、そうだねイーリス。もう行くよ」 「イーリス嬢、検査を受けますか?」 「黙れ」  そしてヨハン王子は、恐い顔と甘い顔を交互に作って、クロードの腕を掴んで歩いて行ってしまった。  健康を証明するために検査するって、おかしな感じだ。  でも、ちょっと前にそんな話を聞いた事があるような…… 「はぁ、ドキドキする」  私は顔を扇いで、ジョンを探しに歩き始めた。  王妃の手紙が少し皴になったので、もっとドキドキしてしまった。  でも…… 「……! !!」  王子に会えた。  にやけてしまって、仕方ない。
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