12 私の王子様と、もうひとりの王子様

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 王子と私が手をつないで部屋に駆け込むと、王妃はまだむっつりしていた。 「賑やかね」 「ああ、噂のイーリスですね。母上」 「……」    男版王妃がそこにいた。  その存在はもちろん、いくら私でも知っている。  第一王子エイベルが、王妃そっくりな顔でむっつりしている。 「おや、兄上じゃあないですか」 「ふん。ヨハン、お前が領主とはな」 「領地がないだけで、今までだって民をまとめて町を反映させてきましたよ。芸術家は気分屋や気難し屋や気にしいや繊細さんやイッチャッテル~な人とか、いろいろなんですから。手練手管は心得ています」 「母上。財務管理をひとりつけたほうがいいかと」 「もちろんよ」  親子喧嘩と兄弟喧嘩は、もう未知だ。  私は話している人に順々と顔を向けて、なりゆきを見守ると言うか、なりゆきに押し流される感じになる。 「まったく、浮ついたお前の顔を見なくて済むと思うと、そのイーリスには感謝しかないな」 「やめてください。兄上、僕のイーリスをそんなに安く見ないでもらいたい」 「あなたのイーリス?」 「そりゃそうでしょう。母上、結婚するんですよ?」 「ヨハン。イーリスを私の娘にしたくて結婚させるとは考えないの?」 「母上。浮かれヨハンにはそんな複雑な心理はわかりませんよ」 「そうよね、ごめんなさい」  やめて! 「待ってください! どうか皆さん、落ち着いて……!」 「あああっ、駄目だイーリス! 食べられちゃうよ!」 「えっ!?」  王子が私のお腹に腕を回し、軽々と持ち上げて部屋を出た。 「兄上は恐ろしく好戦的なんだ。どんなに澄まして座っていようとあれはいっつも、いっつもいっつも心の内で戦争してる。まったく、イーリスをあんな野蛮人と一緒の部屋に置いておけない。危なかった」 「……私の、お義兄様になる方ですよね……?」 「そう! ぞっとするよ」 「……」  そうだろうか。  王妃の息子で、王子の兄なんだから、絶対いい人に決まってる。  そんな事より王子にずっと抱きかかえられて、ニマニマしちゃう。  私、好きな人と結婚するんだ。  やったぁ♪
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