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17 離れがたい人々
戴冠式があって城に帰ってきた。
まさか私が王族の席に座るなんて、びっくりだ。
「苦しくないかい? 靴は、痛くない?」
「はいっ、だっ、大丈夫です!」
「辛くなったら言うんだよ?」
「きっ、緊張して……!」
「うん。そうだよね。真っ青だよ、イーリス。心配だ」
「……はいっ!」
という感じで、義兄エイベルの戴冠式は乗り越えた。
盛大な祝宴が開かれ、私は眩暈を覚えた。
ぜんぶ美味しそう!
ひとつの胃袋じゃ、足りない……!!
「はぁっ、なっ、なんという事なの……! 天国!」
「落ち着いて、可愛いイーリス。さあ、みんなに挨拶して回るよ」
「はああんっ、サンドイッチィ……っ!」
「よしよしイーリス、あ・と・で」
「あああっ」
私は手を伸ばした。
継承権を放棄して公爵となったといっても、王子は王子。慣れている。緊張と空腹で心に嵐を抱える私を上手に導いてくれた。
宮廷にいた頃はこちらが頭を下げていたのに、とても恭しく相手をされる。私は、今や、国王陛下の義理の妹になってしまったのだ。
それより、もう、食べたいのですけど……!
「イーリス」
「王妃様!」
いちばん会いたかった人が声をかけてくれた。
「馬鹿ね。もう王妃じゃないのよ」
「あ……王太后様!」
「そうね。元気だった? イーリス」
元王妃が優しく微笑み、私の頬を撫でてくれた。
「はい!」
なんだかとても、きれい。
久しぶりに会った元王妃は、6才くらい若返ったような感じで、肌も目の煌めきも見た事もないほど輝いている。
「母上」
「ヨハン。あっちへいってらっしゃい。イーリスとお喋りしたいの」
「……まあ、いいでしょう。またね、イーリス」
ヨハンは私の頬にキスをすると、鼻をつんつんして、それからウィンクして、そして手を振りながら投げキスもして離れていった。
「相変わらず喧しい子ね」
「王妃様! お会いしたかったです。お元気ですか? 今日はおめでとうございます! 前の王様が欠席されたのは残念でしたね。でも、たくさんの方にお祝いされて、エイベル王太子も本当によかったですね!」
「いろいろ違うけど、気持ちは伝わったわ」
「あっ。エイベル国王陛下でした」
「そうよ。人前では間違えないようにね、イーリス」
「気をつけます……っ」
元王妃がするりと私と腕を組んだ。
「!」
仲良し!
「あんまり痩せてなくて安心したわ。クロードは元気? 姿が見えないわね」
「あはっ。クロードさんは、交代で来たバーモスさんというお医者様のお孫さんと仲良くなって、今、お城を案内しつつイチャイチャしています」
「……」
絶句している。
やっぱり、祝宴を抜けだしたのは秘密にしておくべきだった、の、かも……
「クロードさんも……人間です」
「……ええ、そうね。詳しく聞かせて」
元王妃が少しだけ身を屈めて、内緒話が始まった。
そして私をぐいぐいと、美味しそうな七面鳥のあるテーブルへと押していく。
ターキー……!
「孫って、いったいいくつのお嬢さんなの? え? お嬢さんよね?」
「はい……」
美味しそう……!!
「やるわね。クロードったら、あなたの健康のために雇ったのに随分と自由」
「はい……」
いい匂い……!
よ、よだれが……!!
「それでいくつなの。城に恋人を連れ込んでどうしようっていうのよ」
「足をもいでしゃぶりつきたいですッ!」
「……」
元王妃が、また絶句している。
それから大きな溜息をついた。
「はぁ。そうよね、お腹が空いたわよね」
「はい!」
「食べなさい」
「はいっ!!」
やったぁ!
ついに……天国オープン!!
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