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3 夢の中へ
今日も素晴らしい一日だった。
王妃は綺麗で、お城も綺麗で。
朝はオリーブのソースでパンを食べ、昼はサワークリームで牛を食べ、ケーキを食べて、夜は鮭と茸。
「幸せ……」
ベッドに横たわり暗い天井を見あげると、期待に胸が膨らんだ。
「明日のあさごはん……なにかしら……」
おやすみなさい。
そして穏やかな睡魔に身を任せた。
『やあ!』
『まあ、あなたは?』
『僕はヨハン王子! 君のコックさ!』
『コック?』
『見てごらん! お城より高いデコレーションケーキだよ!!』
『まあ! 素敵!!』
「……むにゃ……ケーキ……」
「なぁんて可愛い寝顔なんだ。はぁ……もぐもぐしてる」
まさか、侵入者がいるなんて気づかなかった。
「なにを食べてるのぉ~……どんなケーキなのかなぁ?」
『イーリス! ケーキのように大きくなってしまったね!!』
『ええ。ケーキが小さくなってしまったわ』
『大丈夫! 僕が、もっと大きなケーキを作ってあげる!!』
『素敵な人……!!』
「……ヨハン王子……」
「えっ? ぼっ、僕の夢……!?」
「……たまご……たべたい……」
「わかったよ。明日は卵だね。任せて。……あと、これを」
『待って! 行かないで!!』
『プリンセス・イーリス。僕は伝説の卵を探しに旅に出るのさ』
『伝説!? 大きいの!?』
『ああ、大きくて美味しいのさ。さらば……!』
『ヨハンコック! ……行かないでっ!』
『止めないでぇ~』
『甘酸っぱいパイを食べたいのぉーっ!!』
『キッシュも焼くよぉ~……よぉ~……ょぉ~……』
「ヨ……ハンコック……」
「おやすみ、イーリス。よい夢を」
そして清々しい朝を迎えた。
のびをして、あくびもして、前髪の付け根を掻いて、ぼんやりする。
「……?」
枕元にキャンディーが3つ、置いてあった。
私は無意識にそれを口に含み、身支度を整え始める。
髪を梳かし、結って、着替えをして、顔を洗っ……
「?」
キャンディー。
なぜ。
「ようふぇいひゃん……」
まあ、いいか。
甘くて美味しいし。
きっと侍女仲間の誰かがくれたのだろう。
誰かの愛人だったりする女性は、たまに、貰い物が要らなくなるとくれたりする。
私は上機嫌で朝の仕事を始めた。
まずは王妃を起こして、着替えを手伝うのだ。
「おはようございます!」
「おはよう、イーリス。口から甘い匂いがするわね」
「はい。どなたかがコレをくださいました」
キャンディーを王妃に見せると、寝起きの顔をギュッと顰めた。
「知らない人から食べ物をもらってはいけません」
「部屋に届いたんです。お城の人です」
「……チッ、あいつ」
王妃はキャンディーの送り主に心当たりがあるようだ。
ほら、やっぱり安全だった。
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