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4 強敵クロード現る!
「おっほん」
「……」
王妃が威厳たっぷりに咳払いして、私を見つめた。
小部屋に呼び出された私は、これはおやつじゃないなと警戒していた。
王妃の隣に、見知らぬ男性が佇んでいる。
「イーリス。彼はクロード」
「はい」
黒髪にキリリとした目。
冷たい雰囲気があるけど、悪い人ではなさそうだ。
「今日から宮廷に住み込みで勤めてもらう、医師です」
「はい」
「どう思うか言ってごらんなさい」
「宮廷内の女性が喜ぶと思います。とても素敵な男性ですので」
「ふっ」
王妃が笑った。ご満悦だ。
「イーリス嬢、クロードです。以後お見知りおきを」
「はい。よろしくお願いします」
まあ、私は元気なので、お世話になる機会はないと思うけど。
「ときにイーリス嬢、ここ数日でなにか変化を感じませんでしたかな?」
「おやつが増えました」
「そしてお肉も増えましたね?」
「……」
なに、この人。
まさか……!
「イーリス」
威厳たっぷりな、王妃に呼ばれる。
「今まで、あなたのおやつは私が厳重に管理していました。ほどよいふくらみを維持する量、至福を与えられる回数、食材。食べすぎかと思えば理由をつけて城のあっちからこっちまでお使いをさせたりね」
「……!」
「ところが最近、愚息がちょっかいを出すようになって、私が保っていた絶妙なバランスをガタガタと崩し、あなたをただただ太らせて笑おうという極悪非道な遊びを始めてしまいました。それは私の不徳の致すところ。あなたを責めたりしません」
ヨハン王子は、毎日毎日、日に3回から8回くらい、おやつをくれる。
今までも幸せだったけれど、最近もっと幸せになった。
まさかそれが、王妃の逆鱗に触れただなんて……!!
「イーリス。あなたが第二王子の誘惑に逆らえないのは、あなたのせいではありません。忌々しい愚息から守るためにクロードを雇ったのよ、イーリス」
ひらり、と王妃がてのひらでクロードを促した。
「イーリス嬢。このまま太り続ければ健康に害が及びます。運動は?」
「い、いいえ……」
「でしたら! 食事管理をするしか生き延びる術はありませんッ!!」
「!!」
クールビューティーなふりして叫ぶから、びっくりしちゃった。
「肥満が引き起こす重大な欠陥は、肝機能、呼吸、心臓に及びます! また口の中の砂糖が菌を繁殖させ、虫歯のみならず胃腸にまで害を及ぼします!」
「……」
「イーリス嬢、はっきり申し上げましょう! 太り過ぎると最悪、失明と四肢切断、心不全で死にます!」
「!!」
死 に ま す
し に ま す
死 ニ マ ス ……
「今くらいの?」
クロードが口調を変えた。
急に、猫なで声……
「ぽっちゃりさんで? あともうちょっとだけ? 管理すれば?」
「……」
「毎日しっかりおやつも食べられるし、健康で長生きで・き・る・の・です!」
「!」
「イーリス。これからはクロードの言う事をよく聞いて、私の用意したおやつだけを食べなさい。あなたが好きなのよ、元気でいて欲しいの。わかってね、イーリス」
「王妃様……ッ」
私は心臓がバクバク言って、すごく汗をかいていた。
目が見えなくなって、手足を失う……?
こっ、恐いっ!!
「大丈夫よ、イーリス。今まで通り。私があなたを守ってあげる」
「……王妃様」
「もし言いつけを守れないなら、クビよ」
「!」
眩暈がした。
「実家ではここで食べるようなおやつは出ないでしょう?」
「……!」
「勘違いしないでね、あなたが大切なの。あなたのおやつは私が決める」
「王妃様……!」
ギラリンッ!
クロードの目が、光った。
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