7 甘酸っぱい香り

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「はわぁ~……」  とてもいい匂いで、つい、王子の首元をくんくんしてしまう。 「どうだい? いい香りだろう?」 「はい……素敵な香り……」 「僕にとって君は、甘く香る小さな白い花」 「はい……」 「おっほん!」 「ひっ!」  王妃に、見つかってしまった。 「……」  王子が敵を迎えるような凛々しい表情で背筋を伸ばす。  王妃はゆっくり、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。 「母上……」 「ヨハン……」  ただならぬ緊迫感!    私は壁際に体を寄せて、高貴なる母子の睨み合いに息を呑んだ。  王子が王妃を睨みつけたまま、小瓶を渡してくる。私はそれをポケットにしまって、小さく頷いた。  そして王妃は王子と向き合って立つと、重々しく囁いた。 「もし、私の可愛いイーリスに変な病気をうつしたら……殺すわよ」 「……!」  穏やかではない。   「王妃様! 虫歯のうつるような事はしていません!」 「あなたは黙っていなさい」 「僕に虫歯はない」 「私が心配しているのは口の中のばい菌じゃあないのよ」 「……」  恐い!  両親は仲がよくて、私もあまり怒られた事がない。  喧嘩なんて、見てるだけでも雷より恐ろしい。  私は壁にはりついて、震えた。 「母上。この際だからハッキリ申し上げますが、僕は芸術を愛しているのであって、画家や踊り子や歌い手と手あたり次第に戯れているわけではありません。父上と混同なさるのはいい加減やめてください」 「そうだとしても先天性の病をうつされたかもしれない」 「なるほど。では母上お抱えの医師に健康診断をしてもらいましょう」 「ほぉう」 「それで潔白が証明できれば、いいわけでしょう?」 「本気なのね」 「……」  すごい迫力!    父は政務官だから、国内や国外とのいざこざが起きないようにしたり、いざこざを片付けるための法律を作っている。その娘の私だから、喧嘩を止める能力はあるはず! 「母子喧嘩はよくありません! なっ、仲良くしてください!」 「無理よ」  砕け散った。  王子がふんと鼻を鳴らし、私の手をそっと掬い上げる。 「なっ!」  王妃が目を剥いた。  王子は私の手の甲にそっとキスをした。 「ごきげんよう。僕の、小さな白い花。或いは、お砂糖ちゃん」 「あわっ、あわわ」  そしてスマートに去っていった。  私は胸を押さえ、昂る気持ちに混乱していた。  甘く切ない、この想い。まさかこれは、これは……!  イチゴより甘酸っぱいという噂の、恋ッ!? 「ヨハン……」  王妃が王子の背中を見つめ、その名を呟いた。
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