キャッシュレス社会

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 いつものコンビニで、ジュースとお菓子を買う。 「三百円になります」  おそらく何かの偉業を成し遂げたであろう人物の肖像画が描かれた、一枚の紙切れを僕は店員に差し出した。 「はい、千円から」 「ちょっと、ウチはキャッシュレスを推奨しているんだけど」  そうだった。  この店員の時は、いつもキャッシュレスにうるさいのを忘れていた。  しかしこの店員はキャッシュレスという言葉の意味を知っているのだろうか。  そう思わせるほどに、頭に付けた星型の大きな髪飾りが彼女をより子どもっぽく見せている。 「ああ、生憎今は現金しか持っていないんだ」 「えー、今時そんなことある?」  上から目線の店員だ。  でも僕は「なるほど、そう来るか」と感心してしまった。 「クレジットカードは家だし、スマホ決済は使ったことないし……」 「そんなんでよく生きてこれたわね」  刺々しい言い方だが、きっとこれは誰かの受け売りだろう。  それを分かっているから、「ははは」と僕は寛大な心で受け流す。 「あ、そうだ。ポイントカードのポイントが余ってるかも」  機転が利いた僕は、店員に右手を差し出す。 「残高確認するわね。……バーコードをピッと。えーっと、残り二十円分足りないわ」 「えー、困ったなぁ。もう現金しかないよ」  これはもうサイダーかグミのどちらかを諦めなければいけないだろう。  苦渋の決断だったが、グミを諦めることにした。  そういえば家にグミはたくさんあった気がする。まぁそれは今は関係ないか。  僕がポイントカードの残高でサイダーを買おうとした時だった。  後ろでレジを待っていた客に肩をトントンとされた。  僕たちのやり取りが長くてしびれを切らしたのだろうか。  彼は不満そうな顔でじっとこちらを見て言った。 「ねぇ、次はヒーローごっこがいい」
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