第34話 その先へ

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それだけ言って私は虹亜に背を向けた。 私が目指すのはここじゃない。 舞台を見た。 そこにはスタインウェイのグランドピアノが置かれている。 「雪元千愛さん。曲はリストよりラ・カンパネラ」 明るい光がピアノを照らしてキラキラとしていた。 両親が客席にいて、先生もいる。 あのコンクールのと同じ。 唯冬と目があった。 私は微笑み、お辞儀する。 そして、顔をあげた。 ピアノの鍵盤を指で撫でた。 唯冬の癖。 いつの間にか私も同じようなしぐさをするようになっていた。 私の音はもう一つではない。 この舞台の上にいても一緒にいてくれる。 今、ここに私の音を大切なあなたに捧げる。 これは始まりを告げる鐘の音。 二人で歩む未来への最初の音。 もう私の中から音が消え去ることはない。 私とあなたの二つの音があるかぎり――― 【了】
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