7270人が本棚に入れています
本棚に追加
/245ページ
それだけ言って私は虹亜に背を向けた。
私が目指すのはここじゃない。
舞台を見た。
そこにはスタインウェイのグランドピアノが置かれている。
「雪元千愛さん。曲はリストよりラ・カンパネラ」
明るい光がピアノを照らしてキラキラとしていた。
両親が客席にいて、先生もいる。
あのコンクールのと同じ。
唯冬と目があった。
私は微笑み、お辞儀する。
そして、顔をあげた。
ピアノの鍵盤を指で撫でた。
唯冬の癖。
いつの間にか私も同じようなしぐさをするようになっていた。
私の音はもう一つではない。
この舞台の上にいても一緒にいてくれる。
今、ここに私の音を大切なあなたに捧げる。
これは始まりを告げる鐘の音。
二人で歩む未来への最初の音。
もう私の中から音が消え去ることはない。
私とあなたの二つの音があるかぎり―――
【了】
最初のコメントを投稿しよう!