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「や、やだ……!ここから出して!」
「懐かしいでしょ?お姉ちゃん?」
「虹亜!開けて!」
もういないのか、返事はなにも聞こえない。
とっさにドアを叩こうとして手を見た。
今、ドアを叩けない。
演奏前に手を痛めるわけにはいかなかった。
冷や汗が落ちた。
怖い。
どうしよう、このまま出れなかったら。
音大を受験して受かったとしても私は二度もコンクールから逃げだした人間だと周りから言われ続けることになる。
それに私が前回のコンクールで迷惑をかけてしまった結朱さんだって、私のことを待っていると言ってくれたのに。
ここで棄権したと聞けば、間違いなく軽蔑される。
唯冬の両親もどんな相手だろうと思うはずだ。
コンクールで負けるなら、まだいい。
弾けないまま、終わるのだけは嫌だった。
虹亜はなんとしてでも私がピアノの道に戻ることを阻止したいのだろう。
「どうしたら……」
息苦しい暗闇の中、胸元のネックレスを
握りしめた。
手の中には指輪がある。
落ち着かなくては。
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