第33話 君の音【唯冬】

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逢生が戻ってくる。 棚の中までくまなく探したけれど、いない。 「ここじゃないのかもな」 「他の場所は?」 「えっと、今日は使用していないのですが、後はもう二階席くらいしか」 「きっとそこだ!」 知久が走り出した。 長い通路を走り、二階席の階段が目に入る。 そこを知久が駆け上がり、見に行った。 だが、すぐに戻ってくる。 「いや、いないな。ここだと誰かを呼べるよな」 「確かに」 ホールの中で見ていない場所はもうここしかない――― 「二人とも静かに」 逢生が目を閉じた。 聴こえてくるのは出場者が演奏する曲の音だけ。 いや、違う、これは。 「聴こえる」 逢生はすっと目を開けた。 俺にも知久にもその音は聴こえていた。 「千愛だ」 すぐに誰が弾いているのかわかった。 ピアノの音がするほうへ近づくと、そこにはドアがあり、鍵がかかっていた。 「そういえば、そこの鍵がないって警備員の人が騒いでいました。今すぐマスターキーを持ってきます!」 女性スタッフが走って行った。
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