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逢生が戻ってくる。
棚の中までくまなく探したけれど、いない。
「ここじゃないのかもな」
「他の場所は?」
「えっと、今日は使用していないのですが、後はもう二階席くらいしか」
「きっとそこだ!」
知久が走り出した。
長い通路を走り、二階席の階段が目に入る。
そこを知久が駆け上がり、見に行った。
だが、すぐに戻ってくる。
「いや、いないな。ここだと誰かを呼べるよな」
「確かに」
ホールの中で見ていない場所はもうここしかない―――
「二人とも静かに」
逢生が目を閉じた。
聴こえてくるのは出場者が演奏する曲の音だけ。
いや、違う、これは。
「聴こえる」
逢生はすっと目を開けた。
俺にも知久にもその音は聴こえていた。
「千愛だ」
すぐに誰が弾いているのかわかった。
ピアノの音がするほうへ近づくと、そこにはドアがあり、鍵がかかっていた。
「そういえば、そこの鍵がないって警備員の人が騒いでいました。今すぐマスターキーを持ってきます!」
女性スタッフが走って行った。
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