第34話 その先へ

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サティのジムノペディ。 この曲を弾いていると心が落ち着く。 今日、唯冬がコンクールを聴きにくると言っていた。 だから、大丈夫――― きっと私を見つけてくれる。 この曲を聴いたなら、私だとすぐにわかってくれるはずだと信じていた。 暗闇は昔のような真っ黒で私の心すら塗りつぶしてしまうような墨色の闇ではない。 微かな光があった。 ドアの前が騒がしく感じて、ふっと顔をドアのほうへと向けた。 「千愛!」 その声は私の一番好きな音。 鍵盤から指を離し、ドアに駆け寄った。 「唯冬!」 その声が聴こえ、ガチャガチャとドアに鍵が差し込まれた音がする。 明るい光が暗い部屋に差し込んで目を細めた。 「よかった……!」 唯冬は泣きそうな顔をして、私に手を伸ばすと抱き締めた。 「感動しているところ悪いけど、控え室へ行って、準備を早くしたほうがいいよ」 「気持ちを落ち着けないとね」 なぜか知久さんと逢生さんまでいた。 「あ、あの……」 肩越しに二人を見ると笑っていた。 唯冬はハッとして体を離し、息を吐く。 「応援にきたいって言うから、しかたなく連れてきた」 「忙しいのにありがとうございます」 「いいよー!今、いいものみれたし。感情的な唯冬とかなかなかみれないよ。いつもクールな俺ってかんじだしさ」 「珍しいね」 「うるさい。客席にいけよ」 二人は笑いながら手を振っていなくなった。 唯冬は控え室まで私を連れていき、髪を直し。服のほこりをはらってくれた。 倉庫にいたせいで、ほこりっぽい。 「許せないな」
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