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唯冬の怒りを含んだ声を耳にして、そっとその手を握った。
「唯冬。もういいの。虹亜になにもしないで」
「俺がやったことをきいたのか」
「詳しくは知らないわ。でも私がやらせたことだって思ったみたい」
「俺が勝手にやったことだ」
「私の両親にも?」
「そうだ」
指輪をした手に指を絡めると険しい顔がわずかにゆるんだ。
大きな手。
長くて繊細な指。
この手はそんなことをするための手じゃない。
「もうなにもしないで。唯冬がいるだけでじゅうぶんなの」
他にはなにも望まない。
あなたが私の音を聴きたいと望んだから、私は今ここにいる。
「唯冬。私が演奏するのを聴いて。私がいい演奏をする。それが一番の仕返しでしょ?」
「強いな、千愛は」
「唯冬と一緒にいるから強いの」
絶対に助けてくれる誰かがいるからこそ強くなれる。
「雪元さん、そろそろ舞台袖にお願いします」
「はい」
返事をする私に唯冬は手を伸ばした。
「それじゃあ、魔法を」
「悪い魔法使いね」
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