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砂糖菓子を口にいれた私の唇をふさいだ。
キスが甘い―――目を細め、何度もキスをして離れた。
「客席で聴いてる」
「ええ」
一緒に控え室を出て、私は舞台へと向かう。
唯冬は客席へ。
舞台袖へ行く前の通路に隈井先生が立っていた。
「ご心配おかけしました」
「渋木がいれば、私のアドバイスはいらないな」
隈井先生は笑う。
私の高校時代の時にはなかった優しい微笑み。
いつも私を見るときは気難しい顔をしていた。
「……帰りたい場所が見つかってよかった」
「はい」
隈井先生は私を心配していたのだ。
昔も今も。
『心配いらない』
それが最大の激励だろう。
手を振って、客席の方へと向かっていった。
昔よりその背中は年老いて見えたけど、足取りはしっかりしていてまだまだ現役。
その背中に会釈し、舞台へと向かう。
舞台袖には深紅のドレスを着た虹亜がいる。
まさか閉じ込めたはずの私がここにやってくるとは思いもしなかったのだろう。
私の姿を見て動揺していた。
「どうやって出てきたの!」
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