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声を張り上げた虹亜に周囲の視線が集まる。
「静かにしてください」
スタッフが近寄って注意すると虹亜はスタッフの手を振り払うように椅子から立ち上がった。
その瞬間、ちゃりんと金属音が床に響く。
しまった!という顔をして虹亜は床を見る。
それを運営スタッフがすばやく拾った。
「これは倉庫の鍵では?」
私を閉じ込めて安心したかったのか、虹亜はその鍵をずっと持っていたのだろう。
私がピアノの部屋の鍵を持っていたのと同じ。
青ざめた顔で虹亜はうつむいていた。
「落ちていたのを拾って届けようとしたのよね。虹亜?」
「お姉ちゃん……」
泣きそうな顔をしているのは演技じゃない。
いつも両親に怒られている私を見て育った虹亜はあんな顔をよくしていた。
仲良くはできないけれど、理解することはできる。
「私の演奏の番ですよね。案内をお願いします」
運営スタッフの人は気づいているのか、難しい顔をしていた。
けれど、私がなにも言わなければ、誰が閉じ込めたかはわからない。
「虹亜。お互い頑張りましょう」
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