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彼のバイオリンは女性に愛を語りかける甘い声に似た音を出し、時々、会場に視線を送り口の端をあげ微笑む。
これは確信犯。
そう思わずにはいられない。
タイのないタキシード、ほとんど私服なのでは?という服で髪は後ろにまとめ、前髪がほんのすこしだけこぼれていた。
それがよけいに彼の持つ色気をさらに増して、女性客はうっとりと見つめている。
会場は女性客が大半だった。
「あいつは女を口説く時にこの曲を弾く」
真剣に聴いていると自分がここに連れてきたくせに不満そうだった。
面白くない顔で唯冬は言った。
さっきまで褒めていたのに。
「わかる気がします」
きっと本人も明るい人なのだろう。
難易度の高い曲で知られているのにそれをなんて軽やかに弾くのだろうか。
確かに唯冬が言うように甘い言葉を女性に話すみたいに音を鳴らす。
こちら側に向ける視線は熱っぽく、ほほ笑んで。
「千愛、あいつに惚れないように」
冗談なのか、本気なのかわからないことを唯冬は言った。
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