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「ああ、知久からチケットをもらってね」
「そう。私は兄さんと前半で共演していたの。飛び込みでね」
長い黒髪の綺麗な女の人だった。
紺のワンピースを着ていて、飛び込みと言ったけど、最初から演奏するつもりだったのは服装や身につけたアクセサリーで見てとれた。
その人は唯冬の背後にいた私を目にすると驚いたような顔をした。
「まさか、雪元千愛……」
「そうだよ。千愛。この子は知久の妹陣川結朱。ピアニストだよ」
「唯冬さん、どういうこと?彼女はピアノをやめて、もう弾けないって聞いていたけど」
「悪いけど、まだ何も言えない。行こう、千愛」
「弾けなくなって、家からも追い出されたって聞いたのに……」
去り際、結朱さんの言葉がきこえて衝撃を受けた。
―――どうして私が家を追い出されたことがみんなに広まっているの?
初対面の結朱さんが知っているのなら、唯冬も知っているということだ。
私が両親から捨てられた存在だということを。
その手を離しかけた時、ぐっと握り返された。
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