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いろいろやってみたけど、自分に接客は向かないことはしっかりと理解できたと思う……
「俺の親は会社経営をしていて、本当は俺にもピアノは続けてほしくないって思ってる。大学を出るまでにピアノで食べることができないなら、やめるように言われてた」
私と逆。
そう思っているのが顔に出ていたのか、唯冬は笑いながら言った。
「つまり、ここをくれたのはこの部屋を維持できるくらい稼げたなら続けていいっていう親からのプレッシャーだよ」
「まだ学生だったのに!?」
「遊ばせるのは学生の間までってことだったんだろうな」
そう言って唯冬は窓からビルを見ろした。
彼は勝者だ。
この風景を眺めることが許される存在。
小さなアパートで暮らしていた私とは大違い。
なにもできずに縮こまって生きていた自分が恥ずかしく感じた。
失ってしまえば、もうそれで全部終わりだと思っていた。
終わりではなかったのに。
「親の考えはともかく、俺は千愛を連れ戻すまでは絶対にやめる気はなかった」
そう言って防音設備が整った部屋のドアを開けた。
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