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グランドピアノが二台―――いっしょに弾くことを考えて置いてあるのだと気づいた。
どうして、ここまで私にできるの?
それが不思議でならない。
「私を連れ戻してどうするの?私になにを望むの?」
唯冬はふっと目を細めた。
まるで愚問だと言わんばかりの態度で。
「君の音を俺に聴かせてくれたら、それでいい」
「雨の庭を聴いたでしょ。もう無理なの」
重たい指、水の中に沈んだまま、浮かべない音。
止めてくれなかったから、溺死していたかもしれない。
二度と弾きたいなんて思わなかっただろう。
でも今は―――
「今は指が動かないだけだ。弾きたいからってすぐに弾けるわけないだろ?何年もブランクがあるんだから」
「指だけじゃない……」
気持ちにもブランクがある。
同じ曲を弾いてもあの頃の私とは同じ曲にはならないだろう。
「そんな千愛にこれをプレゼントしよう」
ぽんっと頭の上に紙袋をのせた。
「なに?」
「弾いていいよ。ただし、無茶苦茶に弾くのはナシで」
「……ハノン」
紙袋から出てきたのは練習教本ハノンだった。
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