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六十番まである練習曲。
指の練習用に使うもので実はあんまり好きじゃない。
「不満そうだな」
「そんなことない……」
唯冬には嘘がつけない。
というか、私の心がわかるの?というくらいすぐに考えていることがバレてしまう。
そして、悔しいくらい私の先を読む。
「指のケアをきちんとすること。それから、ちゃんと食事をすることと睡眠時間はとること」
「そんなの気にしたことないわ」
「奏者にとって体は音を出すための楽器の一部だろ?」
「そうだけど。誰も私にそんなふうに言ったことなかったから。そう言われてもわからない」
「じゃあ。これからは意識するんだな」
思えば、今までは両親は私のことは好きにさせていた。
弾きたいだけ弾かせて、食べたくなったら食べる。
冷えた食事をそのまま食べることもあった。
口に入るものなら、なんでもいいなんて思っていた。
「千愛に足りないのは熱だよ」
「熱……」
「音楽への熱があれば、弾きたいっていう気持ちが自然に持てるようになる」
「唯冬は先生みたいね」
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