7712人が本棚に入れています
本棚に追加
それも口うるさいタイプの。
唯冬はにこっと嬉しそうな顔をした。
今のは嫌みなのになぜ?と思っているとハノンを私の手からとり、台に置いた。
「名前、呼んでくれて嬉しい」
手をとり、手のひらに口づける。
柔らかな感触と熱が伝わり、自分の顔が赤くなるのがわかった。
「ちょっ、ちょっと!いちいち手にキスをしないで!」
「じゃあ、口に」
「なおさら、ダメっっっ!」
身構えると唯冬は渋々手を離した。
「魔法のキスかもしれないのに」
「もうだまされないわよ」
油断大敵。
ちょっと気を抜くとなにをするかわからない。
とんでもないわ……本当に。
「魔法は効いてるみたいだけど?」
人の悪い笑みを浮かべる。
どこまでお見通しなのだろう。
今、私は弾きたい。
なにも考えずに無心で。
そこになんの理由もなく、弾きたいという気持ちだけがあった。
だから、奏でることはできないけれど、弾くことはできる。
その確認のために。
「千愛の邪魔になりたくないから、おとなしくするかな。夕飯は食べていけばいい。ゆっくり弾けるだろ?」
最初のコメントを投稿しよう!