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「あ、ありがとう」
唯冬が部屋から出ていくとホッとして、椅子に座った。
整えられた設備に二台のピアノ。
そして、ハノン。
私がここに来ることがわかっていたかのようにすべてが整えられていた。
弾けるかどうかもわからない私のために。
私のことをからかわなければ、本当に親切でいい人だと思う。
「千愛」
「はっ、はい!」
悪いことはなにもしていないのにドキッとして声がうわずってしまった。
唯冬はそばに立つとキャンディの包みのような和紙で包まれた丸いお菓子を見せた。
「口を開けて」
「く、口!?」
唯冬は紙をくるくるとほどき、指でつまむと唇に添えた。
な、な、なんでっ!?自分で食べられるのに……
「ん?」
混乱している私ににっこり微笑んだ。
観念して口を開けると、唯冬は親鳥が雛鳥にエサを与えるように上を向かせて唇に指を触れさせた。
ドキドキしているのは私だけかもしれない。
唯冬は表情を崩さず、目を細めて白い砂糖菓子を口の中にいれた。
小さな丸い砂糖菓子は雪みたいにスッと溶けた。
「甘くておいしい……これはなに?」
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