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「もっ、もう大丈夫だから、は、離れて」
「わかった」
自然なしぐさで額にキスをして、そっと離れた。
「なっ!?」
「どうぞ?」
抱き締められていた腕から転がるように逃げ出すと唯冬は可笑しそうに笑っていた。
ひど、ひどすぎるっ……!
またからかって。
涙目になりながら、ふらふらと立ち上がった。
精神的ダメージが酷い。
「かっ、帰るっ!」
「朝食を用意しよう。会社まで車で送る。それなら、まだ平気だろ?」
「そこまでしてもらう理由はないわ」
「いまさら?」
いまさら―――グサッと心臓に突き刺さった。
確かにそうだった。
夕飯まで作らせたあげく長時間、ピアノを独占してしまった。
「あ、あの、お礼とかっ……できたら……なるべく、物品で」
「物品……」
じゃないと、なにを要求されるかわからない。
「なかなか賢いな。そうだな。いつか俺と一緒に演奏をするってのはどう?」
「一緒に?でもまだそんなレベルじゃないし……」
「だから、『いつか』だ。急がなくていい」
「それなら……」
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