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すると――――
「ねぇ、あれが光希様よね?」
「や、だってお姫様抱っこよ?あれが光希様じゃ無ければ何だって言うのよ!」
使用人さん達がお喋りをしていた。
俺の名前が聞こえた為、咄嗟に隠れる。
「ま、伊織様が惚れ込むのも
分かる気がするわ……」
「ね、なんとも言えないそそっかしさというかヘタレ感があって、守ってあげたくなるもの!」
……何か凄く酷いことを言われている気がする……。あんな綺麗なおば様方にもそんなことを思われているのだろうか。
「で、伊織様が光希様を2千万円で買ったってほんと?昨日まで話したこともなかったわよね??」
「まぁ、伊織様のストーカー生活に終わりが来たんですもの。なんでもいいでしょう?」
ストーカー……?
あいつ、変態とは思ってたけど誰かにストーカーしてたのか……。
世界の技術力を結集させてストーカー行為を行う姿が目に浮かび、つい苦笑が漏れる。
「そのお陰で自殺が阻止できたんでしょう?なら良かったじゃない」
……ん?
「ま、ゲイの伊織様が同居まで来れたことにも感動だけれど……欲を言うならその前にちゃんと告白して欲しかったのよね……」
……ちょっと待て、まさか……。
いや、ありえないが……もしかして。
「まぁ、社長といち社員ですもの。
ちょっとくらい強引なのも仕方ないわ」
「社内の見回りをしていたときに一目惚れ、でしたっけ。涙目で電話応対する様子に……とか、やっぱドSよね〜」
そんなことを言いながらふふふっ、と
笑い合う姿は見えているのだが、もう頭に入ってこない。
ここまでの情報を整理してみる。
ストーカー行為に気付いたことは無いが、自殺を止められたのは記憶に新しい。
それで、俺はゲイの西園寺の恋愛対象である男で、今日同居が決まったばかりだ。
その上、俺は知っての通り
Saionzi Holdingsの社員だ。
そして、最初の方はお偉いさんとかクレーマー的な人とかが怖くて、電話の度に涙目になっていた記憶がある。
つまり――――
…………西園寺の好きな人は、
俺かもしれないということだ。
そりゃあ社員なんて本社だけでも腐るほど居るだろうし、同居している男性もこんだけ広いんだから俺が会えてないだけでまだいてもおかしくない。
ただ、自殺未遂者がそう何人も居るとは思いたく無いし、俺が電話応対で泣いてた時も『こんな奴は初めてだよ!』と上司に怒られた記憶がある。
……え、でも好きな奴に対してあんな態度取るか……?
告白も無しに媚薬持って……て、手コキ……だよな。
流石にその辺の常識はありそうだから、似た境遇の俺を見つけて練習してる……とか。
いや、それでも充分頭おかしいんだけど……っ。
「……え、何でまだここに居るんだ?」
「うわぁっ!?」
そんなことをうだうだ考えている間に、着替え終わったご本人が登場してしまった。
白いシャツに紺のズボンのパジャマで、遠目からだとスーツにしか見えないだろう。
……俺にはこんなん着せときやがって、普通にかっこいいし。
さっきあんな考えに至ってしまったからか、直視できない。
「や、使用人さん達がお喋りしてるみたいで、内容はわからないけど楽しそうだったから……」
もしものことを考え、一応聞かなかったことにしておく。
あのおば様方が何話してたか西園寺に言っちゃったら少し(俺の精神が)辛い。
「なんだ、んなもん無言で入れば居なくなるのに」
「だから、邪魔しちゃ悪いなって思ったんだよ……!」
つーか俺が入ってったらクソ気まずいだろ内容的に!
……とは、残念ながら言えないが。
「……そういうものか。分かった、俺から伝えておこう」
「は……?」
よく分からないことを言ったあと、西園寺は「おい、橋本さん、福地さん、柘植さん」と呼びながらリビングに入っていった。
まさか、全員の名前を……?
というか社長として社員の名前と顔は一致させているって言ってたし、ガチで凄え奴なんだな……。
くだらないことを考えて気を紛らわせつつ、聞き耳を立てる。
「あ、すみません西園寺様!どうかなさいました?」
「いや、こちらこそ話の邪魔をして悪い。ただ、光希が楽しそうなのを邪魔しちゃ悪い……と遠慮して扉の前でもじもじしてたので、使用人の部屋などで話してくれると助かるな」
うわぁ……。
どちらにも気を使ってくれているのは嫌というほど伝わってくる。
が、その言い方だと俺が超軟弱男みたいな……恥ずい。
「……ちなみに、光希様は会話の内容について何か仰ってました?」
「えっと……内容は分からないが楽しそうだ、と。何か聞かれて拙いことでも?」
「いえ、どうして気を使っていただけたのかしらと思いまして」
……橋本さん、ポーカーフェイスが凄まじい。
何だあの目も口も笑ってるのに背筋が凍る笑顔……。
「そういうことでしたら、私達は使用人棟に戻らせて頂きましょうか。光希様が食べられなかった夕食は夜食と共に冷蔵庫に入れてありますので、もしお腹が空いたらレンジで温めてお食べください」
……俺のごはん、ちゃんとあったんだ。そして宣言通りに橋本さん御一行がこのドアにやって来て……
「わ、ほんとに待ってる!」
当たり前だし予想はしていたが、驚かれた。
「……あの、俺の所為ですみません」
「いえ。聞いて頂いたとおりに少し愛が重い西園寺ですが、ぜひ好きになってあげて下さいね」
にこ、と可愛らしく微笑まれた。
つーか、俺がここに居ることバレてたのか……。
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