雨を見て僕が思い出すもの

2/8
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
そしてあれは、吸血鬼ハンターとして働き始めてから3年目のことだ。 僕は上から管轄区域を与えられて、そこで一人で仕事をこなさなければならなくなった。 僕の管轄は川と海に囲まれた三角州の中のその村だった。今思えば水に恵まれ過ぎた土地だったように思う。 ちょうど梅雨の時期で雨が続いていて、アスファルトの道路や公園の土壌は毎日雨水で濡れていた。 川が溢れんばかりに波うっていたのを発見しては、本来の仕事では無いのに上司に連絡しなければならなかった。 僕はその日、普段通りに自分の管轄区域を巡視していた。 相変わらず雨はやまない。じめじめした空気が嫌いな僕にとってはとても苦しいものだった。 村の人達はこの大雨の中に外を出歩くことが危険だと判断したのか、町に行っても外を歩いている人間はほとんどいなかった。 仲のいい主婦に話を聞くと、今や当たるのが当然になっている便利な天気予報により大雨が来ることを知った村人達は、食料を買い込んでいるため外に出る必要がないと言っていた。 情報というのは、偉大なものである。 案の定の雨模様の中でその村の巡察をしていたその日、僕は川の橋の上で一人の少女が倒れていたのを見つけた。 少女は泥だらけのワンピースを着ていて、今にも死んでしまうのではないかと思うくらい衰弱していた。 村人の命を守るこの仕事についてるものならば、この光景に胸を痛めてこの少女に駆け寄っただろうか。まあ、犯罪者の僕にはよくわからない感情なのだが。 しかし、生まれたときから人と人ならざるものの区別がついていた僕は、それを見て一秒の間もなく理解することができた。 通常の人間とは違う、獣のような匂い。彼女は、吸血鬼の生き残りの一人だった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!