雨を見て僕が思い出すもの

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彼女の監視を誰もやりたがる人がいなかったため、結局僕に押し付けられることになった。 それは僕へのちょっとした嫌がらせも含まれていたらしい。だが彼女のことを胸に支えていた僕にとってぴったりの仕事だった。 その日から僕はハンターではなくなった。 少女の監視員となったのだ。 僕と彼女は村外れの山の奥にある拘束所に送り出された。少女は首と両腕に枷を着けられて地下の牢屋に入れられ、僕は一日中その檻の側に配置された。 僕の食事は食事は朝と晩の二回ほど下っ端の職員が僕がいる地下まで運んでくれる。 まあ当然だが、彼女の食事は用意されていない。 誰かと交代することもできないその監視任務は、休む暇などないくらい過酷なものだった。 四六時中監視を続けなければならない状況で、僕が休むことができたのは彼女が深い息を吐きながら眠っているときくらいだ。 まあそれも彼女に異変が起きたときに素早く気づくために浅い睡眠しか取れなかったのだが。 けれど二人の空間は思ったよりも心地が良かった。 何か談笑をしているわけでもトランプやチェスで遊んでいるわけでもないが、僕は彼女との時折の会話にとても癒やされていた。 そして二人の生活を通して、少しずつ彼女のことを知っていった。 そう例えば……ある日の少女は、僕に配分された安っぽいパンを凝視していた。 相変わらず無表情だが、どこか驚いているような気がして僕は寡黙な彼女に話しかけた。 「どうしたんだい」 「…これは、なに」 「ああ、それはパンだな。小麦粉を練って熱で焼いて膨らませた食べ物だよ。……吸血鬼は、人間の食べ物を食べれるのかい」 「……食べれないことは、ない。けれど、吸血鬼にとってはなんの意味もない行為。だから普通は、食べない」 「そうなんだ。……コレに興味があるのなら、よければこれ、食べてみるか?」 「なんで?」 「なんでって、知らないさ。ほら、食べるかどうかは君が決めてくれ。人間の食べ物は吸血鬼に何の影響も及ぼさないのだろう?」 「…わかった。たべる」 「……どうだい?」 「…んー。普通」 「そうか。その、やっぱり血のほうが美味しいのか?」 「……うーん……私はそういうの、よくわからない」 「そ、そうか」 その日から僕は、彼女の分の食事も料理人に頼むことにした。少女に人間の食事を与えるのは少し不安なところがあったが、物珍しそうに料理を眺める彼女の姿を見てそんな心配は霧散した。
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