小噺

1/2
前へ
/10ページ
次へ

小噺

☆ある日の、牢屋での会話。初期の頃 「そういえば、君の名前は?僕は君を何と呼んだらいいんだい」 「んー…………」 「………」 「知らない」 「ええっ」 「必要なかったから」 「じゃあ、他の人は君のことをなんて呼んでいるんだ」 「おいとか、お前とか」 「ええ……流石にそんな呼び方、僕にはできない」 「そもそも、あなた以外の人間と会う機会なんて殆ど無い」 「それは……そうだな」 「別に、今まで通り"きみ"で良いじゃない。呼び名なんて、然程気にしてないし」 「うん……。うーん」 「……」 「わかったよ。でもいつか、それ以外の名前を呼べるようになりたいな。いつまでもそれだと、何だかいけない気がする」「なにそれ……。よくわからない」 「わからなくてもいいよ。多分これは、僕の気持ちの問題だから」 ☆出会って3年くらいたったころ。牢屋での話 「どうしたんだ、浮かない顔をして」 「……私ってそんなにわかりやすい?」 「いいや?僕が見たところ、君は感情が顔に出にくいタイプだと思う。……ずっと見てたからな、僕にはわかってしまうんだ」 「あなた、私のことをそんなに見てるの?」 「仕方がないだろう、それが仕事だし」 「……そうね」 「……また暗い顔してるな。一体何が気がかりなんだい。なにか要望があるなら、僕から上に言っておくが」 「………ごめんなさい。……どうしても、考えてしまって」 「……?」 「私は一体、何なんだろうと。吸血鬼でも人間でも無い私は、何として生きたらいいんだろうと。ずっと、考えてる」 「なるほど…それは、僕には答えられないな。君の"太陽を苦としない"体質については、正直国もお手上げ状態なんだ」 「ええ、そうでしょうね。あなたにはわからないだろうって分かってたわ。だから、言う必要ないと思ったの」 「それは……悪い」 「謝らなくていいわ。でも……」 「うん?」 「……今はあまり気分が良くないの。この間持ってきてくれた、カードゲームで一緒に遊んでくれたら許してあげる」 「ああ……いいよ、もちろん。あの遊び気に入ってくれたんだな?君からそういうことを言ってくるなんて珍しいな」 「…………」 「ああごめん、からかったつもりは無いのだが」 「わかってるわよ……」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加