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小噺
☆ある日の、牢屋での会話。初期の頃
「そういえば、君の名前は?僕は君を何と呼んだらいいんだい」
「んー…………」
「………」
「知らない」
「ええっ」
「必要なかったから」
「じゃあ、他の人は君のことをなんて呼んでいるんだ」
「おいとか、お前とか」
「ええ……流石にそんな呼び方、僕にはできない」
「そもそも、あなた以外の人間と会う機会なんて殆ど無い」
「それは……そうだな」
「別に、今まで通り"きみ"で良いじゃない。呼び名なんて、然程気にしてないし」
「うん……。うーん」
「……」
「わかったよ。でもいつか、それ以外の名前を呼べるようになりたいな。いつまでもそれだと、何だかいけない気がする」「なにそれ……。よくわからない」
「わからなくてもいいよ。多分これは、僕の気持ちの問題だから」
☆出会って3年くらいたったころ。牢屋での話
「どうしたんだ、浮かない顔をして」
「……私ってそんなにわかりやすい?」
「いいや?僕が見たところ、君は感情が顔に出にくいタイプだと思う。……ずっと見てたからな、僕にはわかってしまうんだ」
「あなた、私のことをそんなに見てるの?」
「仕方がないだろう、それが仕事だし」
「……そうね」
「……また暗い顔してるな。一体何が気がかりなんだい。なにか要望があるなら、僕から上に言っておくが」
「………ごめんなさい。……どうしても、考えてしまって」
「……?」
「私は一体、何なんだろうと。吸血鬼でも人間でも無い私は、何として生きたらいいんだろうと。ずっと、考えてる」
「なるほど…それは、僕には答えられないな。君の"太陽を苦としない"体質については、正直国もお手上げ状態なんだ」
「ええ、そうでしょうね。あなたにはわからないだろうって分かってたわ。だから、言う必要ないと思ったの」
「それは……悪い」
「謝らなくていいわ。でも……」
「うん?」
「……今はあまり気分が良くないの。この間持ってきてくれた、カードゲームで一緒に遊んでくれたら許してあげる」
「ああ……いいよ、もちろん。あの遊び気に入ってくれたんだな?君からそういうことを言ってくるなんて珍しいな」
「…………」
「ああごめん、からかったつもりは無いのだが」
「わかってるわよ……」
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