推しが死んでしまった!

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社内の廊下を早歩きでヒールをカツカツと鳴らす。 「麗子部長今日もカッコイイ」 「また、デザインコンペで優勝したんだって」 「本当、憧れよね」 等の賞賛の声が聞こえた。 普段ならそれに向かってニコリと微笑みでもするが、今脳内はルキウス様の葬式祭りでそんな余裕はなかった。 そもそも葬式祭とは一体。 自分の造語に疑問を持ちながら、こんな事ではだめと思いながらもルキウス様との私の五年間の蜜月を反芻してその日結局仕事が手に付かなかった。 そして一人、会社に残って残業していた。 今日は体調悪いからと、乗り切ったが明日も、明々後日も、その次も、ずっと体調悪いで乗り切るには無理があった。 この状態がいつまで続くか自分でも分からなくて余計に気分が沈んだ。 新しい推しを探す気力もない。 ただ、推しが死んだと言う事実が私をどん底に突き落としていた。 しかも、今も残業は手に付かず、パソコンにはルキウス様の壁紙を貼っつけてその美しいご尊顔を拝謁していた。 黒髪をオールバッグにして、鋭い赤の瞳。 陶磁器のような肌に黒の豪奢な公爵衣装。 仲間のために誰よりも先に自分が戦い、傷つくのを厭わない姿が好きだった。 そう、いつだって「戦う」姿のキャラクターが私の好みだった。 そして、ルキウス様を包むこの服に何度生まれ変わりたいかと思ったか。 しかし、今はそれすらも叶わぬ夢となった。 ──そもそも二次元の服になれるかどうかとは置いといて。 「酷い……何で死んだの。そもそもヴァンパイア戦記は双子の兄弟ルキウス様(兄)とユリウス(弟)が聖女の生まれ変わり(マリア)を守る、メインストーリーじゃない……ってか、ルキウス様が死んだら、ユリウスエンド確定じゃん! ぅぁぁ……もう駄目……」 私はパソコンの前に突っ伏した。 原作で死んだら元も子もない。 舞台版の俳優に生きる道もあったが──。 「舞台版のルキウス様は解釈違いで駄目なのよっ! いや、カッコイイんだけどねっ!? でも、ちょっと雰囲気が明るすぎるの。もっと暗い感じのダークな感じが良くてっ!」 一人で騒いでも誰も応える訳でもなく。 いや、応える人がいたら困るのだが。 ふと、周りを見ると社内は既に電気が落ちて私の周りだけが明るかった。 腕時計を見ると21時になろうとしていた。 仕事も一向に終わりが見えない。 「ちょっと、気分転換しよう……」 私は独り言をいいながら自販機のあるフロアに向かった。 薄暗い廊下をフラフラと歩き、紙コップのコーヒーを選んで、砂糖、ミルク、マシマシにした。 「……ふふ。ルキウス様も甘い物大好きなのよね……」 そんな事をいいながら、また自分のデスクに戻ろうと廊下の角を曲がったところ、人にぶつかってしまった。 ばしゃりと、カップからコーヒーが盛大に溢れてしまった。 むせ返るようなコーヒーの香りが辺りに漂う。 「あぁっ、ごめんなさいっ! ちょっとぼうっとしていてっ! 熱くないっ? 大丈夫かしら!?」 しかも私が手前にカップを持っていたために、中身の液体は相手に全部ぶちまける形になってしまった。 私はそのぶちまけた相手を見ると、同じ部署の後輩──宮下氷河(みやしたひょうが)君だった。
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