推しが死んでしまった!

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推しが死んでしまった!

鬼龍院麗子(きりゅういんれいこ)。 なんて強そうな自分の名前。 私は今年で28歳になる。 今でこそこの名前と中身と顔が名前に負けないようになったが。 会社のトイレの鏡に映る今の私は──。 眉もアイラインもキリっと整え描かれ、睫毛もくっきり上を向いている。 新作のスモークピンクのアイシャドウに大人可愛いを実践した完璧なメイク。服装もスマートな紺のジャケットに白のタイトなスカート。 髪も艷やかな黒髪をきっちりと夜会巻きに結い上げている。 しかし涙目で全てが台無しだった。 バリキャリの名を努力で勝ち取ってきた。 それも裸足で逃げ出しそうな暗い顔の私がいた。 鏡に手を当てて一人そっと呟く。 「そう、私は努力した。あの魔法少女達に負けないように内面も外も頑張って磨いた。いつだって困難に立ち向かい、仕事もノルマも、今の部長という役職も手に入れたきたじゃない。麗子」 ぐっと鏡に力を入れる。 「だから麗子、今回も負けないで。今回の新作デザインでコンペを勝ち取り、チームをまとめ上げ、店頭に私達の夢が詰まったデザインを披露するのよ」 キッと鏡に映る私を睨みつけて。 話しかけて、気合を入れて。 その場をさっそうと後に──。 「って、無理ぃぃぃ! 今回は無理ッ!」 うぁぁんと、絶対部下や上司に見せられない泣き顔で私は個室トレイに逃げ込んだ。 勢いよくドアを締めてえぐえぐと泣き始める。 「っう。ひっく。無理よ。今回は無理。私の推しが死んでしまった! どうやって生きていけばいいの。もう、私も死にたいぃぃぃ」 カラカラとトイレットペーパーを手に取り巻いて、涙や鼻を拭いていく。 そして走馬灯のように私の脳裏に推しと出会ったヒストリーが思いだされた。 私はそもそもこの名前のせいで小さな頃から大変からかわれた。 鬼っ子。 組長みたい。 麗しくない。 とか、さまざま。 私はそのたびにうつ向いて泣くことしか出来なくて。 そうしていると、泣く自分も嫌になって──小学校時代に不登校になってしまった。
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