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そんな中学生みたいな思いに苦笑しながら、漫画を読んで行き、夢中になってしまいあっという間に深夜になり俺は慌てて就寝した。
翌日、何とかいつも通りに起床して身支度を整え、適当に朝食を作る。
そして──。
自分でも鬱陶しい長めの前髪を整え、伊達眼鏡を付けて出勤した。
外はまだ気温が上がりきらず、空気は冷たく日差しは暖かい。
そんないつも通りの早朝の中、朝日が眩しく伊達眼鏡がめんどくさいとしばしば思った。
もともとの俺の顔の作りが、どーやら、何もしてないのに睨んでいるように見えるらしく、小学生の時など無駄に喧嘩に発展したりした。
ヤンキーになってからはそれでも良かった。
なんなら眼光で相手がビビってくれて無駄な喧嘩などぜずに済んだ。
だから、自然と睨みグセが着いてしまった。
しかし今は──。
「ヤンキーなんて全く関係のない人達だもんな……」
そう、職場は華やかで、社交的な人が多く、俺から言わせたら明るいインスタグラムの住人の巣窟。みたいな。
外に、外に目を向ける仕事だから、そういう人種が多いのも頷ける。
そんな同僚達と無益なトラブルを回避するために今のような髪型、眼鏡に落ち着いた。
部長は自分の事をコスプレオタクと言ったが、俺は仕事の時は毎日黒いスーツを着て、顔を隠し、眼鏡を付けて。
一人称も俺から僕に変えて。
それこそ毎日コスプレしているような気分だった。
「そんな俺がさらにコスプレするとか、面白すぎんだろ」
思わず、そんな事を言って苦笑してしまった。
そんな埒も開かないことを考えながら、会社に到着した。
自分のデスクに到着するなり。
「宮下クン、おはよう。朝から申し訳なんだけれど、画像のスキャン作業でこの補正がどうやるか分からなくて、教えて欲しいんだけれど」
そう言って来たのは同期の氷里さんだった。
氷里マリナさんは、同僚曰く。
「めっちゃかわいい。小さいのにおっぱい大きくて、髪がいい匂いで、おっぱい大きくて!」
同僚が胸が好きなのは良くわかったが。
──俺から言わせたら新人キャバ嬢みたいな人だなと思った。
そしてまさに、ボトルを入れてくれと、ねだるような、うるうるした瞳で俺の返事を待っていた。
「ええ、いいですよ。僕がわかる範囲であれば」
「良かったー。私がやったらすぐフリーズしちゃうんですよね。ありがとうございます!」
そう言ってにこにこと笑う氷里さん。
俺はそのまま氷里さんのデスクでしばしスキャン作業を手伝っていた。
そうしてその後、自分の仕事も片付けつつ昼過ぎになったとき部長からラインが飛んできた。
「今日の夜、よろしくね、お仕事がんばろー♫」
そして、ヴァンパイア戦記のラインスタンプも一緒に届いて俺は思わず口を緩めて笑ってしまった。
そんな時、胸好きの同僚──花下が俺の肩にどさりとのかってきた。
花村は短くカットされた髪型にガタイが良く、まるでサッカー選手みたいに明るく爽やかなやつだった。
「みーやーしーたー。珍しいなお前が笑っているの。なんか良いことあったか?」
俺はすぐに笑みを消して。
「別に笑ってなんかないですよ」
「いやいや、笑ってたね。そうだ。その良い事あててやろうか」
にやにやと笑いながら、俺の耳元で囁いた。
「氷里ちゃん。氷里ちゃんだろ。朝からイチャイチャしていやらしい&羨ましい事で。さっそくライン交換したとかだろ!? 部署のアイドルといーなー」
「してないです。仕事を手伝っていただけです」
と、伝えても「隠すな、隠すな」とにやにやと笑うばかりだった。
──俺がライン交換したのはアイドルじゃなくて高嶺の花のほうだと、ちょっと言いたくなってしまったが、そこは黙って花村の言葉を否定し続けた。
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