推しに貢ぐのが生きがいですから!

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そのままろくに宮下君にコンタクトを取れず会議直前になってしまった。 その前にどうしても修正したい書類があり、私は必死でパソコンのキーを叩いていた。 宮下君に話しかけようにも内容が内容と言うか。 別に悪いことはしてないのだれけども大ぴっらに話しが出来ずにモヤモヤしていた。 何度か仕事中に宮下君を盗見すると、しきりに額を擦っていた。 また、氷里ちゃんから差し入れされたミネラルウォーターをがぶ飲みしていた。 「……私も同じの買っていて、差し入れしようとか言えない……」 そうして敢え無く部下を労る上司チャンスも無くなり仕方なく、このミネラルウォーターは私が飲むとして。 ──氷里茉里(まり)。 流石、アイドル氷里。 と、舌を巻く思いだった。  そもそも私のように年上から心配されるより、宮下君も同年代の可愛子ちゃんから心配される方がいいだろう。 宮下君には完璧なルキウス様コスプレをして貰えたらそれでいいのだから。 ──ちょっと、昨日公園でいきなり漢らしいとか、さり気ないボディタッチに久方ぶりにトキメイたとか、年下可愛いなーとか、思ってない。 「……思ってない。思ってない。ちょっとルキウス様が死んでしまって隙が出来てしまったせいよ。私はこれからもルキウス様に納税して」 「ぶちょー、会議始まりますよー」 「ルキウス様の素晴しさを後世に伝える活動と、作者にバレンタインデーにルキウス様へのチョコレートを贈り続ける──」 「鬼の形相でパソコン叩いてないで、会議室来て下さーい。あと、独り言ブツブツと怖いです」 「──義務があるのよっ!」 私は力いっぱいターンっと、キーを押した。 それと同時に近くでびっくりする声がした。 「わ! え、義務!? 会議は義務ですかねっ!?」 はたと、気がつくと部下の花村君が私を呼びに来ていた。 そうか。もう、そんな時間だったか。 「あ。えっと。ごめんなさい。今、丁度別の仕事を片付けたくて。えっと、すぐに行きます」 ええ、よろしくお願いします。と、花村君はわたわたと会議室に向かった。 「私としたことが」 ふっと、ため息をつく。 宮下君に渡せなかったミネラルウォーターの蓋を開けてごくごくと飲む。 そして気持ちを入れ替えて会議に向かった。 今日は『リリィ』全体の月1会議。 大会議室に何巡にも席に着くのは迫力があった。 私は一応、部長なので前方に座席が用意されており、そこに急いで座った。 それから間もなく主任が淡々と会議を始めた。 今日の会議はいつもの定例の『リリィ』の各店舗の売上と売れ筋商品の動向把握。 そして半年後に行われる社内コンペの参加案内。 『リリィ』と『モルガナ』のガチンコ対決。 でも、まずは『リリィ』の代表にならなければならない。 このあたりで会議室からガリガリとメモを取るペンの音が増えた。 ──やはり、皆デザイナーを志すもの。 私ももちろん参加する。 この音が皆の静かな闘志だと思った。 そして主任は淡々と話していく。 三日後にまずは『リリィ』の代表を5名決める募集が始まる事。 そこから一ヶ月内の応募期間内にデザインを出すも出さないも自由。 締切からまた一ヶ月後に代表5名が決まる。 その5名は4ヶ月後のリリィ代表になるべく、デザインと実際の服も作らなければならない事。 これは非常にハードな話しだったが、私はこれを経験している。 結果は代表には選ばれなかった。 もちろん、悔しかった。 しかし。 ──あのとき日常業務との兼ね合いでハゲるかと思ったけれど、それ以上に。 楽しかった。 そして今年もこれがやってきたと思った。 私もガリガリと主任の言う事をノートに纏めていった。
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