推しに貢ぐのが生きがいですから!

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そしてつつがなく会議が終わり、ぐっと背伸びをしながら。 ──今日は定時で上がれるな。 今日は家で何かご飯でも作って早く寝よう。 帰りにバスボムでも買って帰ろうか。 本屋に寄って新作のデザイン集を買うのも良いかも知れない。 で──。 帰りにちょっと宮下君に声かけよう。 そんな事を思ってたら後ろから宮下君に声をかけられた。 「部長、ちょっといいですか?」 「え、えぇ。どうぞ」  びっくりしたが私は佇まいを直して、さも自然さを装ってみた。 宮下君はいつも通りクールな様子で、朝言っていた深酒の話も嘘じゃないかってくらいに、しゃんとしていた。 そしてさっき配られた資料を私の机の前に広げて白い余白の部分にカリカリとペンを走らせた。 「さっきの売上についてと、デザイン応募の事なんですが、わからない事があって。質問いいですか?」 と、言いながら余白に書かれた文字に目を落とすと。 『昨日はすみませんでした。不審者達はさておき』 さておき!? いや、そこがどうなったか知りたい所だったが、男たちが公園に倒れていたと言う事を思いだした。 で、宮下君は無事である。 今、こうやって近くでみてもどこにも傷など見当たらない。 好奇心猫を殺す。 もう何があったかは知らないが、こうして無事で何よりという事に──しようと思った。 「どうぞ、何でも聞いて頂戴」 私もペンででっかく余白に書いた。 『すっごい心配しました。でも守ってくれてありがとう』 ようやくお礼が言えて私は安堵した。 その書き殴りの文字を見ると宮下君は一瞬だけ微笑した。 そしてすぐにいつもの表情に戻りながら言葉と裏腹に宮下君のペンは滑らかに走り続けた。 『本当はすぐに、連絡を入れたかったのですが、あのあと。旧友に出くわしてスマホを破壊されました。それで連絡が出来ませんでした。すみません』 『旧友でんじゃらす』 そこで宮下君は沈痛な表情でゆっくり頷いた。 『とにかく。仕事が終わってからすぐにスマホ修理してきます。で、また──』 そこで宮下君はペンをすっと紙から離して直接声で私に言った。 「また、僕に色々教えて下さい。よろしくお願いします」 最後に少し紙の上でペン先が迷って。 『また、誘って下さい』と一度書いたものにバツをして。 『今度は俺から誘います』 と、書いた。 おれ? おれってかいた? この子!? 私は思わず声に出そうなったがその瞬間に。 宮下君は静かにペンを自分の口元にもっていき──にっと口の端を吊り上げて笑った。 そして。 私に礼を言って、資料を素早く纏めて。 すっと頭を下げて会議室を出て行った。 ──私もそれを見届けてから。 ゆっくりと席を立ち上がり。 近くにいた同じ部署の子に「ちょっと資料室によってからデスクに戻りますと」と、一声掛けて。 私は速歩きで資料室に飛び込んだ。 誰も居ないのを確認して──。 「何だあれ──! 超超・ルキウスマイルじゃん!! 五周年記念のセンタカラーイラストかと思ったわ!! え、あれは私が喜ぶと思って、身も心もルキウスになろうとしてくれてる、宮下君の献身的な心意気──!」 なんたること。 宮下君の心意気を甘くみていた私を許して欲しい。 私も気合を入れて衣装を作らなければいけない。 「今日は手芸店に寄るわ。もう、素材に糸目は付けない。刺繍レースにフリンジ、ストーンパーツにブレードにレース。最高の衣装を用意するからね──!」 そうして私は資料室で一人で闘志を燃やしていた。
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