推しが死んでしまった!

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そうして、私が引きこもって2週間ほどした頃だった。 その間ずっと家で漫画や小説を読み漁り、両親と一緒にゲームを沢山して。アニメも沢山みた。 その中でも私は特に魔法少女に恋い焦がれた。 可愛い服を着ながら、悪者に果敢に立ち向かう魔法少女。とてもキラキラして皆んな可愛いかった。 私もこんな風にありたいと思った。 そんなときにふと自分の姿を見た。 それはぼさぼさの髪に、毛玉が着いたパジャマ。 顔色は青白く、肌もガサガサしていた。 驚愕した。 なぜ、私と彼女達は違うのだろうかと。 なぜ、私はこんなにも暗いのかと。 ちっともキラキラしてない。 なぜ。 なぜ。 なぜ。 子供心にショックを受けた。 そして私は思った。 魔法少女プリティ・チャーミーは変身ロッドがなくても単身魔王の城に乗り込んだ。 アクア戦隊マーメイド・マリンは仲間が倒れても一人で最後まで戦った。 そう、彼女達は戦ったのだ。 一人でも、怖くても、泣きながら。 戦った。 戦いを始めないと、負けることすらも出来ない。 そう、私は戦いすらまだしてないと思った。 彼女たちのようになりたい。 キラキラしたい。 ──強くなりたい。 その日のうちに私は母にお願いしてボサボサに伸びていた髪を綺麗にばっさりと切って貰った。 不登校で昼夜逆転した生活を改めた。 マリンのように規則正しい生活を心がけて身だしなみもちゃんと整えた。 そしてチャーミーの如く、魔王の城に行くような気持ちで勇気を出して学校に再び通い出した。 マリンのように、チャーミーのようにしっかりと前を向いて『戦おう』と思った。 そうやって毅然とした態度を取っていたら自然と私へのからかいはなくなった。 勝ったと思った。 嬉しかった。 学校生活は楽しいものに変わった。 ──ここで、話が終わると美談なのだけれど──。 「そう、私は次の段階。本気で魔法少女になりたくなったのよね……本気で魔法が使えるとは流石に思ってなかった。けれど、似せれると思ったの……ぅぅ」 また、カラカラとトイレットペーパーを巻く。 そう、私はそうやってコスプレにはまって行った。 高校生、大学生と、コミケにイベントにコスプレをしまくった。 憧れの二次元になりたくて日々、ダイエット、美容、メイク技術、ありとあらゆる努力をして。 衣装も自分で作って。 作る喜びを知った。 服一枚で人は違う自分になれる事を実感した。 そして、それが今の仕事。 服のデザインに携わる仕事に就いた。 そうやってがむしゃらに頑張ってきた。 流石にコスプレは引退したが漫画やアニメは今も大好きだった。 それが私のエネルギー源だった。 「皆には、うぐ。ひっく。ナイショだけどね……」 昔、憧れたチャーミーやマリンに恥じないように頑張ってきた。 そして私のバイブルに出会った。 5年前から連載している漫画 『ヴァンパイア戦記』 これにドハマりした。 その中でもキャラクターの「ルキウス」様。 恋に落ちるレベルの推しと出会った。 ヴァンパイア戦記はアニメ、劇場版にもなり、舞台化にもなるぐらいの大人気漫画で。 それがいよいよ近日に完結になるのだが──。 その漫画で私の推し。 今月号、少女漫画雑誌『RiRi』にて。 ルキウス様がお亡くなりになられた。 「ああぁ……どんだけ貢いだと思ってんだこんちきしょうって。うう。作者に現金送りつけたら復活させてくれるのかな………署名活動したらいいのか……」 私が本気で途方に暮れていると。 ドアの向こうかからパタパタと足音がして。 後輩の子の声がした。 「麗子部長、居ますか? デザイナーの方からお電話入ってますよー!」 2秒目を瞑ってスイッチを切り替える。  高速で目もとも整える。 「──ごめんなさい。少し考えごとをしていて、すぐ行くわ」 と、いつも通りを演じて今度こそトイレを後にした。
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