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私。俺。僕。
名前なんてどーでもいい。
むしろNO NAMEの方がいいぐらい。
本名がクドリャフツェフ・有愛とかなげぇので、今は俺様って言い方がブームなのでとりあえず俺様と自分の事を呼んでいる。
ここは俺様が経営しているバーの一つ。
俺様はそこでシェーカーを振っていた。
内装も装飾も全て成金共が好みそうなものでガチガチに固めて、おまけに会員制。
しかし、そんな方が小金持ち達には受けは良いらしくどの店も繁盛していた。
そして俺様が店内に立つと大体──。
「君があのロシア系・外資系のトップ『クド・グループ』の御曹司とは」
「こんなところでお目にかかるとは」
「なんて美丈夫でいらっしゃる」
とかクソどーでもいい事しか言わない。
なので俺様もクソ以下の返事しかしない。
「所詮、親の七光りです。私などがグループを引き継ぐなどおこがましい。こうやって居るのが丁度良いのです」
──親の仕事を引き継ぐなんて死んでもごめんだった。
だから昔、大いに反抗した。
そして今も仕事があるから、無理ぴょんって言って逃げ回っている。
シェーカーを振り切り、蓋を開けてグラスに中身を注いでいく。
そして出来上がったものをカウンターに置く。
そしてそれを飲んで俺様をちやほやする。
静かに酒も飲めねーのか、とは思うが笑顔で黙っとく。
どーでも言い話に耳をちっとも傾けずにふと、昔の事が過ぎった。
そう現状は昔、俺様が親に反抗しまくって不良を謳歌していたときに出会った、宮下氷河との約束だった。
うんと、あれは高校時代か。
最初、宮下氷河なるやつがイキっていると後輩が言うもんだから様子を見に行くとやたらと眼光鋭いやつがいた。
面白そうだから喧嘩をふっかけてみたが、氷河は「俺目つき悪いんだよ。睨んでない。悪かった」と、素直に俺様に頭を下げてその場を後にしようとした。
そのとき俺様はびっくりした。
今まで会う人間全てが俺様に伺いを立てる、媚を売りへつらうばかり。大人も例外ではなかった。
そしてこんな普通の扱いをしてくれる、日本人──宮下氷河が初めてだった。
俺様は何とか引き止めたくてその後ろ姿に飛び蹴りをかまして、氷河の気を引いた。
それは大いに成功して俺様の名前を覚えてもらうのに成功したが、何故か氷河はその一件から俺様を避けるようになった。
だから余計に追いかけ回してやった。
俺様はなんだかつれない猫を追いかけ回す気分みたいで大変楽しかった。
氷河は「分かったから、友達になってやるから、乗り込んで来んな!」とか何故か怒っていたが。
ふふと、思い出し笑いをすると何故かカウンター越しのやたらと唇が赤い女が頬を赤くした。
お前に向けて笑ってねーよと、思いながら、一応ここに立っているので仕事をする。
女のグラスを見ると空になっていた。
「おかわりしますか? それとも違うものを作りましょうか?」
「おすすめをお願いします」
かしこまりましたと、手早く空いたグラスを下げて氷河が好きだったモヒートを作ろうと思った。
──なんだかんだで、二人で遊んで気がついらそこそこ大きい族のトップに氷河が君臨しようとしていた。
それでいいと思った。
まだまだ遊べると思った矢先に突然氷河が族を抜けるとか──言い出すまでは。
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