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どいつもこいつもヤキを入れてやろうか!
そこはイタリアン料理のガーデンコーナーの片隅に設けられた喫煙所だった。
夜になるとガーデンコーナーはライトが灯り、絵葉書を切り取ったみたいにキレイだったが。
俺は──間違って日本酒を飲んでしまったらしく悪酔いを覚まそうと喫煙所で涼んでいた。
──体質的に酒は強い。
しかし、日本酒とは相性が悪く少しでも体に入ると一気に酔が回ってしまう体質だった。
「……気持ちわる……」
そんな事をいいながら、口を押さ終えて華奢な椅子に腰掛けて居たら氷里さんがやってきた。
「宮下クン、ここにいたんだ。ごめんね。私が注文した日本酒のカクテルと白ワイン間違えて──」
「……いえ、大丈夫ですから。気にせず戻って下さい。もう少ししたら僕も戻りますから」
「これ、お水。さっきお店の人に貰ってきたの。飲んだ方がいいと思うから」
すっと差し出されたグラスに俺は「では、頂きますと」と、頭を下げてそれを一気に飲み干した。
そして──。
なんでこんな事になったのかと、回らない頭で考えた。
そう。
俺は久しぶりに有愛──昔の友達に合い、何故かスマホを壊され、やつの家とか言う、高級ホテルに連れこまれ朝まで飲みにつき合わされた。
朝になり、少し酒が抜けきれないままホテルから出勤した。
どうせ、有愛とはまた会う予感がしたのでキングサイズのベッドの上で何故か全裸で寝ているその安らかな顔に落書き(昨日のパンチの礼)をしてそのままホテルを出た。
そして、その日はろくに部長と会話を出来ず、もやもやしてしまい、会議後に自分でも少し大胆な行動をしてしまった。
そんな事を少々悔やんだりしながら、何とかスマホのデータを移し変えて新しくして、部長に連絡して次の休みにまた会う約束を取り付ける事が出来た。
引かれてなくて良かったと思った。
なんと言うか部長のコスプレの秘密を暴露されてから何となく俺の身辺は慌ただしくなったと思った。
スマホを修理した次の日。
そう、次のコンペ──リリィの代表になるデザイン募集に向けて新人達の決起集会と言う事で花村が急遽飲み会を開催すると言う。
今までなら断っても良かったが、自分から部長にコミュ不全解消を言っていた事もあるし、有愛に会って少し、「仲間」と言う昔の事を思い出した。
そんな事もあって、花村の妙に参加してくれと言う後押しもあり新人の飲み会に参加したが──。
ほぼ合コンだった。
5人対5人。
大きな机に真っ白いテーブルクロス。
今から晩餐会でも行われるような雰囲気だった。
俺は取り敢えず、花村を睨みながら簡単な自己紹介をした。
俺達、男性は全て同じ部署のメンツだったが、参加女子は同じ部署の氷里さんと、三名が見知った顔で後の残りは違う部署の人たちで知らない顔ぶれだった。
全員の自己紹介を終わると女子たちは声を揃えたように席を立ち、男どもだけが席に残された。
俺はつかさず、花村ににじり寄った。
「説明しろ」
「やだ、宮下くーん。怖いぞって。マジで目が怖いんだけどー! ってか、説明するも何も合コンだよ! 別にそこまで怒る案件じゃないだろう!?」
「なんで、急に」
「えー。秘密なんだけれどぉ。えっとお」
と妙に花村がくねくねしながら言うもんだから俺はテーブルに置かれたナイフをゆっくりと持って笑ってみた。
「だから、怖いって! いや、実は氷里ちゃんか皆で親睦深めたいねって話を持ちかけてきて。フリーの皆が仲良くなれたらいいねって言うもんだから、話が盛り上がって合コン開催してみましたーみたいなっ」
へへへと、笑いながら。
って、別に悪い話しじゃないだろう!?
皆カワイコちゃんばっかりだし!
お前もフリーだし、いいじゃん!
と、花村は言った。
それに対して、俺以外の男共がコクコク頷いた。
「ま、この機会に女子と仲良くなる前に、男子とも仲良くなっとけよ、な?」
確かに──俺はあまり自分から進んで話しをしないし、まぁこれもいい機会かと。
特に男の同僚と喋るのも良い機会と思った。
何しろ俺は今、麗子部長が気になる。
しかし、それをここで暴露する訳にも行かないので、分かったと、一言返事をした。
そしてそのタイミングを狙ったかのように女子達が席に戻ってきた。
そして俺の前に氷里さんが座った。
目が合うと氷里さんはにっこり笑った。
──確かに、その笑顔は可愛らしいものだった。
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